コルボーンの花嫁候補 5

「姉上から、火山の状況を確認し、場合によってはホークヤード国王に協力するようにと命令を受けた」


 ドウェインさんから火山の噴火の可能性を聞かされた翌日。

 スカーレット女王陛下に、ロックさんにお願いして連絡を入れたところ、グレアム様に調査命令が下ったそうです。

 わたくしとグレアム様は、ダイニングで昼食中です。エイブラム殿下もいらっしゃいます。ホークヤード国の噴火の可能性を聞くと、「あー……」と声を上げたきり黙りこまれました。

 そうですね。エイデン国としても無視できない問題でしょうし。


「姉上のことだ、この機会についでにホークヤード国に恩を売っておきたいという狙いもあるのだろう。どちらにせよ、調査しないことには報告もできない。『そんな話を聞いた』などという不確かな情報を他国の王には奏上できないからな。……新婚旅行どころではなくなりそうだ」

「ちなみによぅ、火山が噴火したとして、その被害はホークヤード国にとどまるのか?」


 エイブラム殿下が重そうに口を開きました。

 グレアム様が難し顔をなさいます。


「火山の場所は、南西部よりの中央付近だ。噴火した場合……ホークヤード国の南のワーシャルドール国にまで被害が出る可能性があることと、おそらくだが火山灰はこちらにも影響する」

「つーことはよ、ホークヤード国に隣接してるコルボーンはもろに火山灰の影響を受けるってこったろ?」

「風向き次第だが、そうなるだろう」

「この時期は南西の風だろ。その可能性が高い。……それに、ホークヤードの獣人たちも間違いなく巻き込まれるわな。あー……。予定通りコルボーンの様子は見に行くが、そのあと、国に帰って親父に相談するわ」

「場合によっては、獣人の難民はそちらで引き受けてもらうことになるだろうからな。……うちの国では、獣人の受け入れに難色を示す連中がいるだろうから」

「だよなあ。この国で獣人の難民を受け入れてもろくな仕事もないだろうから、コルボーンのときみたいに内乱に発展しかねないもんなぁ……」

「悪い」

「別にお前が悪いわけじゃねーだろ。……となると、一時的にコルボーンに避難させた後でうちの国に異動させるのが一番楽か……。ブルーノにも話を通しておかないとな」

「ああ。そのつもりだ。もっとも、噴火を防ぐことができるならそれに越したことはないんだが」

「できんのか、そんなこと」

「……正直できる気はしない」

「だよなあ。いくらお前でも、それは無理だ。それこそ火竜を起こさない限りな」

「目覚めさせることができればいいんだが……火竜の一族で無理なんだ。可能性は低いな」


 グレアム様もエイブラム殿下もすごくすごく厳しい表情をされています。

 ドウェインさんは能天気な顔をしていましたが、このお二人の顔を見ていると、わたくしが思っている以上に火山の噴火は大問題のようです。

 わたくしは巻き込まれるかもしれない人々のことが心配でしたが、国を担うお二人の視線で考えると、それだけではないのでしょう。


「国の半分が飲まれてみろ。経済もおかしくなるし、下手をすりゃあ、国としての機能も停止する。他国も戦争を仕掛ける絶好のチャンスになるだろうし。ホークヤード国が亡ぶぞ」

「仕掛けてくる可能性が一番高いのはワーシャルドールだ。今回の火山の噴火で被害が出るだろうし、その被害を取り戻すためにホークヤード国を奪い取ろうとしてもおかしくない。……ホークヤード国は金が豊富だからな。国土が半分溶岩に飲まれて破壊されていようと、長い目で見れば十分取り返せる」

「ワーシャルドールはホークヤードと仲が悪いからな。遠慮なんかしねぇわな。だがそうなりゃ、クウィスロフトからも援軍を出すことになるだろ?」

「なるだろうな。だが、ワーシャルドール国は大きな国だ。援軍を出したところで勝てるかどうかはわからん。その時のホークヤード国の被害次第と言ったところだ」


 ……火山の噴火によって、戦争まで巻き起こってしまうかもしれないんですか。火山の噴火で疲弊しているだろう人々に、それはあんまりな仕打ちです。


「ともかく、早めに調査して、早く対策を練る必要がある。コルボーンにも寄らなければならないし、予定より早いが明日出発するぞ。マーシア、メロディ、アレクシアの準備を頼む。デイヴはバーグソンに連絡を入れてくれ。……それから、気は進まないが、ドウェインを連れていく」


 そうですね。可能性は低いですが火竜様の目覚めさせようと思えば、ドウェインさんがいたほうがいいでしょう。情報もお持ちですし。

 こんな緊迫した状況でも、呑気にキノコ集めをするのだろうと思うと、とっても気分は重いですが、やむをえません。


 ……火竜様は、どうすればお目覚めになってくださるのでしょうか。


 そもそも竜の方々がどうして眠りにつかれるのかを知らないわたくしは、途方にくれたい気分でした。



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