コルボーンの花嫁候補 2

「新婚旅行?」


 グレアム様の腕に頭を預け、わたくしが訊ねますと、グレアム様はわたくしの髪を梳くように撫でながら少し考えこみました。


「考えていなかったが、そうだな。せっかくだ、どこか行くか?」

「いいのですか?」

「ああ。バーグソンのじじいに頼んで、二週間ばかり時間を作ろう。……だが、どこに行くかだな。鳥車を使えば、たいていのところには行けるが」


 鳥車であれば長距離でもあっという間に移動できますからね。確かに、鳥車を利用すれば結構遠くまで旅行に行くことができそうです。


「ホークヤードの国の海岸沿いにリゾート地があったな」

「ホークヤード国ですか?」


 ホークヤード国はクウィスロフト国の南の国境とつながっている国です。

 クウィスロフトは内陸にある国ですので海には面していませんが、ホークヤード国の西側には海があります。

 海というのは話でしか聞いたことがないので、正直わたくしには想像ができません。池や湖よりもずっと大きくて、たくさんの塩味のお水があるところと言うことしか知らないのです。


「そういえば、ジョエル君たちは、今ホークヤード国にいるそうです」

「……ああ、そういえばそうだったな」


 グレアム様がちょっと嫌な顔をしました。

 ジョエル君は火竜の末裔の一族の「王」です。ちなみにわたくしは「姫」で、本当ならジョエル君の妃となる立場なのだとか。

 そのせいでわたくしは当時ジョエル君の側近だったドウェインさんに攫われてしまったのですが、グレアム様はそのときのことを思い出しているのでしょう。

 でも、ドウェインさんはともかく、ジョエル君は話の通じる方でしたからね。そんなに警戒しなくてもいいと思うのですよ。


「ホークヤード国も広いからな。旅行に行ったからと言ってかち合うことはないだろう。どうする? 海に行くか?」

「はい!」

「わかった。明日すぐにとはいかないが、準備しておこう」


 そうですね。女王陛下はお帰りになりましたが、まだエイブラム殿下は滞在されていますから。しばらく遊んで帰るとおっしゃっていたので、あと数日は滞在しそうですし。さすがにお客様を放置して旅行には行けません。

 グレアム様に頭を撫でていただくのが気持ちよくて、だんだんと眠たくなってきます。

 うとうとと瞼を上げ下げしながら、でももう少しグレアム様に甘えていたくて、わたくしは必死に眠気と戦います。


「……そういえば、海にも魔物がいるのですか?」

「ああ、いるぞ」

「ということは、魔石もあるのでしょうか……?」

「そうだな。だが、たいていは海の底に転がっているからな……。波で海岸に打ち上げられることもあるが、すぐに人が拾っていくから、なかなか見つけるのは難しいだろう」

「そうなんですね……」


 せっかく旅行に行くのですから、グレアム様がお好きな魔石も採取できればと思ったのですけど、それは運次第というとこでしょうか。


「アレクシア、眠いのだろう? もう寝ろ」

「ん……でも……」


 まだお話したいです。

 眠りにつく前にグレアム様とお話しするのはとても楽しくて、幸せなのです。

 ごしごしと目をこすると、グレアム様がそっとその手を握ります。


「無理に起きようとするな」


 腕の中に抱き込まれて、ぽんぽんと背中を叩かれます。


 ……ああ、ダメです。そんなことをされれば、余計に眠気が……。


「ホークヤード国に行くのならば、その前にコルボーンに立ち寄ってもいいかもしれないな」


 うつらうつらしていると、グレアム様がそんなことをつぶやきました。

 そうですね。コルボーンが今どうなっているのか、とても気になります。

 ブルーノさんの新しい花嫁さんが決まったのかどうかも知りたいですし。

 確か、デイヴィソン伯爵の娘さん二人とお見合いをして、ちょっといい感じだという話は聞いたのですが、どんなふうにいい感じなのか詳細は聞かされていなかったので。

 それに、コードウェルから建築家の方々を派遣して制作中の町がどのくらい出来上がったのか、この目で見てみたいですし……。


「おやすみ、アレクシア」


 ああ、わたくしはそろそろ限界のようです。

 すーっと睡魔に誘われるように眠りの世界に落ちる直前、グレアム様が優しく額に口づけを落としてくださいました。


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