「王」の来訪 2
ロックさんがドウェインさんを縛り上げて連れ帰りましたが、ドウェインさんはまだお休み中でした。
縄でぐるぐる巻きにされた格好で「くーくー」と気持ちよさそうな寝息を立てています。
毒キノコが大量に詰まった籠は、そのまま山の中に放置しておくのは危険な気がしたそうで、一応持ち帰ってくださったそうです。
ドウェインさんが目を覚ました後でとても喜ぶと思います。
ただ、籠にたくさん詰まった毒キノコに、グレアム様をはじめ、ロックさんや諜報隊の皆さんはドン引きしていました。
「アレクシア、お前の気持ちがよくわかる。こんな毒々しいキノコを平然と口にできる人間など俺も見たくない」
「獣人でも無理ですよ。何ですか。明らかに怪しいじゃないですか。……この男、自殺願望でもあるんじゃないですかね」
ロックさんがおっしゃいますが、ドウェインさんにあるのは自殺願望ではなく、キノコの味に対する類を見ない探求心ですよ。毒がスパイスらしいですから。
「それにしても、信じられないくらいに間抜けな男だな。こんな男に出し抜かれたのだと思うと……こう、ぶん殴りたくなるほどの苛立ちを覚えるのだが」
グレアム様はドウェインさんのことを間抜けとおっしゃいますが、キノコが絡まなければそうでもないんですよ。わたくしが逃げないように、しっかりと見張っていたようですし。……本当に。キノコが絡まなければですけどね。
「ドウェインさんはきっと毒キノコ感知の能力があるのだと思います。どこにいても見つけるんです。歩いていて突然走り出したかと思うと、藪の中に生えているキノコを採ってくるんですよ」
「そ、それはすごい嗅覚ですね。……そんな能力、私はいりませんが」
ロックさんがさらに引いた顔をして、眠るドウェインさんを見やります。
そうですね。わたくしも、上げると言われてもそんな能力はいりません。お断りします。
「旦那様、それでこの男どうします? 叩き起こしますか?」
「いや。一度王都のクレヴァリー公爵邸に連れ帰ろう。眠らせたままの方がいい。下手に起こすと厄介だからな。途中で目を覚まさないよう、眠りの魔術を重ねがけしておく」
「了解しました。さすがに抱えて飛ぶのは無理ですので、鳥車を持ってこさせて詰め込みます」
「ああ」
「それで、この毒キノコはどうしますか?」
「…………ここに置いていきたいが、置いていくと神父が困るだろう。一緒に王都へ運んでくれ」
運びたくないんですね。わかります。処分に困るので、こうなればドウェインさん起きた後で全部召し上がっていただくしかありませんね。喜んで食べてくれますよ。
食べているところは見たくありませんけどね。けたけた笑ったり、びくびく痙攣したりしながらキノコを食べる姿は、あれはトラウマものですよ。もう見たくありませんし、グレアム様も見ない方がいいと思います。
鳥車が到着したところで、グレアム様が神父様にお礼を言って、わたくしを抱えたまま魔術で宙に浮かび上がりました。
抱きかかえられた姿で恐縮ですが、わたくしも神父様にお礼を言います。
本当に……いろいろと本当にご迷惑をおかけいたしました。
ドウェインさんが混沌茸を食べて眠ったと聞かされ、籠いっぱいの毒キノコを見たときの神父様の驚愕に引きつった顔はきっと一生忘れません。ショックを与えてしまって申し訳ございませんでした。ドウェインさんに代わって謝罪いたします。だってきっとドウェインさんは謝らないと思いますから!
グレアム様に抱きかかえられて、王都のクレヴァリー公爵邸に戻りますと、邸の中からメロディとマーシア、そしてオルグさんが飛び出してきました。
「奥様‼」
グレアム様がわたくしを地面に下しますと、メロディが勢いよく抱き着いてきます。
……わわわ!
勢いがすごすぎて後ろに倒れそうになったわたくしを、グレアム様が支えてくださいました。
「メロディ、勢いをつけて飛びついたら危ないだろう」
グレアム様が注意なさいますが、いいのです。だって、メロディ、震えています。わたくしをぎゅうぎゅう抱きしめて、泣いているのです。
「奥様、奥様ぁ! ごめんなさい! 一緒にいたのに、奥様を守れなくて、わたしっ」
「奥様、俺も……気絶して倒れるとか、護衛失格で……申し訳ありませんでした!」
オルグさんまで泣きそうに顔をゆがめています。
大丈夫ですのに。そりゃあドウェインさんは変人さんすぎて怖かったですけど、命が脅かされたわけではありません。……何度か毒キノコを進められましたが、断固として拒否しましたからね。
そんなことより、メロディやオルグさんが無事で本当によかったです。
でも、グレアム様が謝罪を受け取った方が二人の気持ちが晴れるとおっしゃったので、メロディとオルグさんから謝罪の言葉を受け取ります。
「お帰りなさいませ、奥様。ご無事で何よりでございます」
マーシアが目じりの涙をぬぐいながら微笑んでくださいました。
……お帰りなさいと言ってもらえるのは、とてもとても嬉しいです。心がポカポカします。
「ご心配をおかけしてすみませんでした。ただいま帰りました、マーシア」
グレアム様やみんなのそばがわたくしのお家なのです。
わかっていたことですが、今日ほどそれを実感したときはありませんでした。
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