王都へ向かうことになりました 2

「本当にそれを持っていくつもりですか?」


 奇しくも同時刻。

 デイヴは玄関にドーンと鎮座した半円状の巨大な物体を前に困惑顔になっていた。

 半円状の物体は黒い色をしていて、表面は白い複雑な模様が描かれていて、無数の緑色の石がはめ込まれている。


 これは、グレアムが改良した結界の魔術具だった。これでもサイズは小さくなっていて、そして新たな機能も加わっている。

 グレアムは魔術具が無事に動作するかどうか入念に調べながら、顔を上げずに答えた。


「当たり前だ」

「ですが、さすがにそれは鳥車には乗らないのでは……」

「何のために鳥の獣人を大勢連れていくと思っているんだ。重量は魔術でコントロールしてやるから、人数がいれば運べるだろう」

「いや、ですけどね。ただ王都に行くために結界の魔術具を持ち運ぶ人がどこにいるというんです」

「ここにいる」

「……他に例を見ませんよと言っているのですよ」


 はあ、とデイヴが額を押さえて息を吐き出したとき、くくくっと小さな笑い声が聞こえてきた。

 グレアムが顔を上げると、玄関からバーグソンが入ってくるところだった。


「少し見ない間に、ずいぶんと過保護になりましたな」

「悪いか?」

「いえ、悪いとは申しませんが……そうですな。王都にそんなものを持ち込めば、騒ぎにはなるでしょうな」

「設置するのはクレヴァリー公爵家の庭だ。町中に置くわけじゃない」

「それでも目立ちますよ……。バーグソン様も止めてください。やめましょうと言っても聞いてくださらないのですから」

「デイヴ、止めるのは無理だと思いますよ。グレアム様は奥方が可愛くて可愛くて仕方がないのですから」

「……うるさいっ」


 グレアムは頬を染めて、だが否定はせずに、魔術具のチェックに戻る。

 この魔術具は、結界の魔術具を応用し、結界に加えて、結界内に侵入した部外者の情報がグレアムに伝わるように設計されているのだ。

 つまり、怪しい人物がクレヴァリー公爵家の邸の敷地内に侵入しても、グレアムがすぐに対処できるのである。


(いまだによくわからないところがたくさんある事件だからな。アレクシアに何かあったら大変だ)


 警戒するに越したことはない。

 デイヴもマーシアもメロディも王都に魔術具を持ち込むのはやめた方がいいというが、対策は万全に行っておくべきだ。

 確かに王都には城に結界の魔術具が一つあるだけで、ほかに魔術具はない。


 そもそも魔術具は珍しいものなので、グレアムがせっせと魔術具を作って設置するコードウェルが異常なだけで、ほかにはあまり置かれていないのだ。

 アレクシアには護身ための魔術を教えたし、姿を消す光と闇の魔術の応用も、少し発動に時間はかかるが使えるようになっている。

 メロディも、魔術は使えないが体術はそこそこのものなので、相手が魔術師でなければ対処可能だ。

 よほどのことがない限り、たぶん大丈夫だと思う。でも、「たぶん」ではダメなのだ。


(ずっと張り付いて守ってやりたいが、結婚式をするまで部屋は別々だとメロディが抜かすからな)


 夜眠っている間にアレクシアの部屋に不審者が忍び込んだらどうするというのだ。

 夜の番は立てるが、それでも万全とは言えない。

 何より、眠っていて妻の危険に気が付かないなんて、グレアムが嫌なのだ。


「何と言われようと、持っていくと言ったら持っていくぞ」


 貴族の視線なんて気にならない。

 アレクシアの安全が確保できるならそれでいいのだ。



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