王都へ向かうことになりました 1
話し合った結果、わたくしはグレアム様とともに、王都に向かうことになりました。
もともと、女王陛下から招集命令は出ていたのだそうです。
わたくしは嫁いだ身であってもクレヴァリー公爵の娘ですから、聴取もありますし、今後についても細々としたことを決めなければなりません。
といいますのも、父が死に、異母姉が捕縛された今、クレヴァリー公爵家の相続権第一位がわたくしなのです。
父が生前、親戚の誰かを指名していたなら違ったでしょうが、父は一番有力候補だったデイヴィソン伯爵の息子エルマン様に家督を渡すのを嫌がっていまして、ずっと渋っていたのだそうです。
父はまだ四十代前半でしたし、義母との離縁は成立したようですので、後妻を娶る可能性もありました。ですので、自分に子が生まれる可能性はまだ残されていましたので、ぎりぎりまで跡取りを指名するのを先延ばしにしていたのでしょう。
もしくは、グレアム様が考えを変えてわたくしと離縁するかもしれないと考えていたのかもしれません。
異母姉がブルーノさんに嫁がされたので、父はわたくしに婿を取らせて跡を継がせるつもりだったようですから。
つまり、わたくしがクレヴァリー公爵家を継がないにしても、後継を指名するのにわたくしのサインが必要なのだそうです。
……とまあ、こういった理由で招集されたのですけど、わたくしだって、これが口実だということはわかります。
女王陛下の本音は、今回の奇妙な事件を早急に解決すること。
そのためにグレアム様に出向いてほしいのです。
グレアム様は王都にいい思い出がないので、十五歳の時にコードウェルに住処を移してからは、滅多に王都には足を運びません。
社交シーズンにも一度も王都へは行きませんし、行ったとしても用が終わればすぐにとんぼ返りです。
ですが、今回の件の調査となれば、さすがに一朝一夕では終わりません。しばらく滞在することになります。ですが何か理由をつけなければグレアム様が動かないと思われたのでしょう。なので、クレヴァリー公爵家の跡取り問題が口実に使われたのです。
グレアム様は、一度クレヴァリー公爵邸は調べるつもりだったようですが、王都に長期滞在するつもりはございませんでしたから、少々不機嫌そうでございます。
移動は鳥車を使うのですぐですので、用があるときだけ向かうと女王陛下に告げたそうですけれど、女王陛下がお許しになりませんでした。
グレアム様は最終的に、城へは滞在せず、クレヴァリー公爵家に滞在することを条件に女王陛下のご命令を飲みました。
そして、クレヴァリー公爵家にいた使用人を全員追い出して、こちらからマーシアとメロディ、そして獣人の方々を連れていくそうです。
デイヴさんはコードウェルでお留守番です。今回もバーグソン様がグレアム様ご不在の間の領主代行を務めます。
「お手荷物はこのくらいでいいですよね。王都ですから、足りなければいくらでも購入できますし。というかむしろ購入したいです。細心のドレスやアクセサリーがわんさかありますから! ね! いいでしょう、お母さん!」
「奥様のドレスはまだ少ないから買うのは全然かまわないけど、帰りの荷物が増えると旦那様が嫌な顔をするわよ」
マーシアがトランクの中身を確認して、頬に手を当てて苦笑します。
ええっと、ドレス、あれで少なかったんですか?
クローゼットにいっぱい詰まっていますよ?
わたくしにはもう充分すぎるほどに見えるのですが。
「王都はちょうど社交シーズンだから、誘われてもいいようにアクセサリー類をもう少し持って行った方がいいかもしれないわね。せっかくだもの、魔石のアクセサリーの方がいいでしょう?」
「さすがお母さん! 魔石のアクセサリーなんて、持っている人なんて少ないもんね! ふふん、自慢できるようにたくさん持っていきましょ」
……社交パーティーとか、自慢とか、いろいろ突っ込み焚きうなるワードが出てきましたよ?
魔石のアクセサリーは、メロディがグレアム様からアクセサリーに使用する魔石をいただいて、魔石商に加工してもらったものです。まだ全部はできていませんが、それでもネックレスが三本、ブレスレットが二本、イヤリングが三ペア、髪飾りが四本もあります。魔石商の方も、こんなにたくさんの魔石のアクセサリーを作ると聞いて目を白黒していました。ちなみに、カットした後のくず魔石は、結婚指輪の時と同様に魔石商さんに差し上げたので、加工代はほとんどタダ同然でした。本人がそれでいいとおっしゃるのでいいのでしょうけど、でも、金とか白金とかあと小さな宝石類とかも使われているので、いいのかなという気持ちにはなります。
だって、魔石は拾ってきただけですからね……。
グレアム様が言うには、メロディが髪飾りの一つに光の魔石を使用したせいだそうです。この光の魔石をカットした後のくず魔石だけで加工代以上になるんですって。
改めて闇の魔石と光の魔石のすごさを思い知らされます。
光の魔石は、大きいものは使っていないんですけどね。二センチ大のものをカットしていただいたので、本当にそれほど大きくないのです。
金色の蝶を模した髪飾りに光の魔石があしらわれて、ほかにもアメシストやパールが使われて、華やかに仕上がっています。
魔力を込めますと、光の魔石がきらきらと金色に輝くのです。
まあ、それはいいのですけど……。
「あの、社交パーティーに、出席することになるんですか?」
わたくしはこの目のせいで、一度も社交パーティーには参加したことがありません。父は、わたくしを人目にさらしたがりませんでしたから、邸の外へもほとんどでたことがなかったのです。
メロディは魔石のアクセサリーを大切にトランクに詰めながら頷きました。
「誘われると思いますよ。なんたって、旦那様のお妃さまですし、お二人の子が次期王になるのはほぼ確定ですから。取り入りたい貴族は多いはずです」
「そんな……!」
「貴族って本当に調子いいですよねー。旦那様のことも、金色の目をしているって言ってずっと遠巻きにしていたくせに、次の王の父親になるとわかった途端に態度が変わるんですよ。知ってます? 実は旦那様宛に面会以来の手紙がたくさん届いているんですよ。仲良くしたいって。ま、旦那様はそんな下心ありありな貴族連中の相手なんてしませんけどね」
知りませんでした……。
でも、そうですよね。次の王はグレアム様のお子様をと女王陛下が決められましたから、権力に取り入りたい貴族たちが手のひらを反すのも頷けます。
……でも、社交パーティーは困ります。
「あの、わたくし、ダンスを習ったことがありません。踊れませんし、どのようにご挨拶していいのかもわかりませんし、パーティーのマナーもわかりません……!」
「そんなの旦那様にお任せしておけば何とかすると思いますけど……でも、そうですねー。奥様がしんどい思いをしてまでパーティーに参加する必要はないですよね」
「そうはいっても、断れないものもあるかもしれませんからね。念のためです」
マーシアが少し困った顔で微笑みます。
そうですよね。断れないものだってありますよね。
でも、出発前にわかっておいてよかったです。覚悟を決める時間がありますから。
「それはそうと」
トランクにアクセサリーを詰め終えて蓋をしたメロディが、窓に向かって遠い目をしました。
「旦那様、本当にアレを持ってくつもりなんですかね」
……そういえば、そんなことを言っていましたね。
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