魔力の残滓のようなものがあるらしいです 4

 わたくしも腕まくりでお手伝いしようとしたのですが、手を出す前にグレアム様に止められてしまいました。

 せめて、窓や玄関に、カーテンをかけるように布を吊るしているメロディのお手伝いをしたかったのですが、危なっかしいのでダメだそうです。


 ……あまり器用ではありませんが、さすがに布をかけるくらいはできると思うのですけど。


 余計なことをしないようにと、グレアム様にしっかり手をつながれています。

 いつもは「おさわり禁止!」と怒るメロディも、今回は目をつむることにしたようです。


 ……わたくし、あまり信用されていないのでしょうか。


 いえ、グレアム様と手がつなげるのはとても嬉しいのですよ? でもお手伝いもしたかった……。


「窓や玄関が布だからな。暖炉は使わず魔術で室温を管理するから、薪は運び入れなくていい。ああ、バスタブか。のちのち建築屋が使うのだとすれば、浴室には防水加工が……ああ、もう、いっそ全部かけるか? 崩すときに人力では崩しにくくはなるが、数か月は使いそうだしな」


 作った土の家に防水加工を施さなかったのは、崩すときのことを考えてのことだったそうです。

 魔術で崩すのであれば問題ないそうですが、人力で崩そうとした場合、防水加工がかけてあると強度が増してなかなか壊れないのだとか。

 獣人の方は魔術と似た力が行使できますが、グレアム様が作ったこの建物はかなり高度な魔術を使用しております。さらにここに撥水加工まで施すとなると、獣人でも崩すのに苦労することになるそうです。


「これだけ立派なものですから、できればしばらく使わせていただければと思います」


 崩すときはその時になって考えるので、問題ないとブルーノさんがおっしゃいました。


「そういうことならかけておくか。その方が使う側は楽だからな」

「あのっ、グレアム様、それはわたくしにもできますか?」


 せめて何かお役に立ちたいです。魔術でしたら多少なりとも何かできる気がして声を上げますと、グレアム様が「そうだな……」と顎に手を当てました。


「水と風と火の複合魔術なんだが、アレクシアは覚えが早いし、できるかもな。教えてやるからやってみろ。魔術具を作り終わった後でいつもかける魔術だから覚えておくと便利だぞ」


 魔術具を作り終わった後で使う魔術を覚えておいて便利なのかどうかはわかりませんでしたが、教えてくださるそうです!

 グレアム様がわたくしの後ろに回り込み、肩を抱いてくださいます。

 メロディは邸の中で作業していますから、今であれば「セクハラ!」と怒られません。


「右半分を俺がかけて見せるから、やってみろ。外が終われば今度は中にかけていくぞ」

「はい!」


 グレアム様が手をかざしますと、一瞬だけ手のひらが光りました。ただ、防水加工をするだけですので、建物の見た目は変わりません。

 今度はわたくしの手を取って、同じように建物に向かって手のひらを向けさせました。


「皿やティーカップのつるりとした表面をイメージするとわかりやすい」

「はい!」


 ……ティーカップ。お皿。コードウェルで使われているのお皿や、模様が描かれていますが基本的に白いです。ティーカップもそう。白くてつるつるのイメージ。


 目を閉じて、頭の中でイメージを固めます。

 複合魔術ですから、掛け声は何といえばいいのかわかりません。

 うーん。お皿になれ! でしょうか。いえ、なんか違う気がします。

 あ、わかりました!


「白くてつるつるになれ!」


 これです!

 あっ、間違えました!


 わたくしは目を開けて、ハッとなりました。

 そう、「白くて」はいらなかったのです!


「あー……」


 グレアム様が、右半分は黄土色、左半分は白くなった建物を見て苦笑します。


「や、やっちゃいました……」

「いや、間違ってはいないぞ。防水加工は完璧だ。むしろ白い方がきれいでいいんじゃないか? 右半分も白にすれば問題ない」


 グレアム様がそうフォローしてくださり、一瞬で右半分を白に変えました。

 うっかりやらかしてしまったわたくしですが、確かに黄土色より、白くてぴかぴかした建物の方が綺麗な気がするので、結果的よかったと思うことにいたしましょう。はい。だって防水加工は完璧だって、グレアム様が褒めてくださいましたから!


「これならもういっそ、玄関扉や窓をつけてもいいんじゃないか?」


 白くて艶々した見た目の建物は、土であっという間に作ったとは思えないほど、とっても立派に見えてきました。

 もう、壊して建て替える必要はないような気もします。

 ブルーノさんもそう思っているのか、「屋根に色を塗れば完璧ですね」なんておっしゃっています。


「まあ、これをどうするかはブルーノの好きにすればいいさ。よし、アレクシア。中の防水加工もしていくぞ」

「わかりました!」


 グレアム様に肩を抱かれて建物に入りますと、布を張り終えて家具の配置を指示していたメロディが、眉を吊り上げて叫びました。


「おさわり禁止‼」


 ……グレアム様にぺったりとくっついていられるのは、どうやらここまでのようです。



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