身を守る魔術を練習します! ……でも、恥ずかしいです。 3
「そうだ、アレクシア。うまいぞ。そのまま、そうだ。蔦が絡みつくイメージで」
護身のための魔術の練習は、滑り出しこそうまくいきませんでしたが、三日目にはだいぶ形になってきました。
グレアム様はわたくしがグレアム様に向かって攻撃ができないと訴えますと、なんだか嬉しそうな顔で「では方法を変えような」とおっしゃってくださったのです。
今、わたくしは火魔術で、檻のようなものを作成中です。
炎の太い糸のようなものをからみ合わせるイメージで、鳥かごのようなものを作ります。
そして、対象者を中に閉じ込めてしまうのです。
火で作った檻は触れれば大やけどではすみませんから、相手を閉じ込めるのにはこれが一番適しているのだとか。後は土魔術で頑丈な檻を作るかですね。
何度も練習すれば、時間をかけずとも一瞬で檻が作れるようになるそうです。
グレアム様が対象物としてどこかから椅子を持ってきまして、それを閉じ込める練習を繰り返しています。
まだ一つの檻を作るのに三分くらいかかってしまいますが、最初は五分かかったので、少しずつ早くなっているのは間違いありません。
グレアム様はそれこそ一秒もかからずに作ってしまうのですよ。わたくしも、グレアム様には及ばずとも、数秒で作れるようになりたいです。
これなら、対象者が檻の中で暴れない限り、命を奪うようなことにはなりませんし。万が一、檻の部分に触れても、さすがに燃えたりは……。
「慣れてきたら温度を上げる練習な。高い温度の炎で作れるようになれば、閉じ込めた相手は生きてはいられまい」
……ちょっと待ってくださいなんだか物騒な言葉が聞こえてきましたよ。
グレアム様は青い炎でちょちょいっと檻を作ります。
あ……中の椅子が一瞬で炭化して崩れ去りました。
ぞっとして、わたくしの顔から血の気が引いていきます。
……この檻は、温度を上げて作ってはいけません。ダメです。絶対に。胸に刻んでおきましょう。
「それでしたらわざわざ檻に閉じ込めずとも燃やしちゃえばいいじゃないですかー」
メロディがさらに物騒なことを……!
「相手を燃やすのはアレクシアが怖がるだろうから、檻にしたんだ」
いえいえ結果殺してしまうなら手段が違うだけでほぼ同じだと思いますよ⁉
グレアム様が教えてくださる「護身術」は、よくよく注意して聞いておかなければ、本当に相手の命を奪い取ってしまいそうです。
なんなんでしょう。グレアム様もメロディも、危害を加えた相手の生命なんて気にしてやる必要はないと言わんばかりですが……え、世間の常識ってそうなんですか?
「遠慮はいりませんよ奥様。やられたらやり返す、これが基本です!」
メロディ、それは本当に基本ですか⁉
「殺ったら面倒な相手は見極める必要があるが、世の中には正当防衛という言葉があるから、細かいことは気にするな」
気にしますよ! というか正当防衛⁉ さすがに殺人は過剰防衛ですよ⁉
「……旦那様、メロディ、奥様が目を白黒させていますから、冗談はそのくらいで」
たまたま通りかかったデイヴさんが、見かねて口を挟んでくださいました。
なんだ、冗談だったんですね。よかったです……。
「デイヴ、勝手に冗談にするな」
「そうよお父さん。奥様が手加減の必要があると勘違いしたら大変じゃない」
手加減って勘違いなんですか⁉
デイヴさんもやれやれという様子で首を横に振っています。
……わ、わたくし、グレアム様のことは大好きですし、信頼もしておりますが、ここはデイヴさんの方の意見を採用します。報復であってもやりすぎはいけません。手加減は必要です。
そんなこんなで、グレアム様とメロディの過激な意見に翻弄されつつも、わたくしの護身のための魔術訓練は続きます……。
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