身を守る魔術を練習します! ……でも、恥ずかしいです。 2

「よし、俺が相手になるから俺に向かって使ってみろ」


 ええっと……わたくしは今、大混乱中です。

 ほかの誰かではなく、大魔術師であるグレアム様がお相手ですから、わたくしのつたない魔術で傷つくことはないと信じておりますが、やはり木の棒をへし折ったあの風の塊をグレアム様にぶつけるのは抵抗感が強いのです。


「で、でも……」


 わたくしはおろおろしながらメロディを見ますと、メロディはぐっと親指を立てていい笑顔を浮かべていました。


「旦那様を見事やっつけてくださいませ奥様!」

「やっつけませんよ、何をおっしゃるんですか⁉」


 そもそも無理だと思うのですが、それ以前、グレアム様に向かって攻撃をするなんて、わたくしには恐ろしくてできそうもありません。

 それなのにグレアム様も、ひいてはくださいませんでした。


「暴漢に襲われた時に素早く対処するためだ。遠慮するな」

「でも……」

「では、こちらから行こう」

「へ⁉」


 あっという間のことでした。

 何が起こったのかよくわかりません。

 気がつけば、わたくしはグレアム様に背後から羽交い絞めにされていたのです。


「ちょ! セクハラ‼」

「護身術の練習だと言っているだろう!」


 メロディが叫びましたが、グレアム様も叫び返します。

 グレアム様に後ろから抱き着かれた格好のわたくしは、身動きが取れずに硬直しました。


 グレアム様の左腕が、しっかりとお腹に回っていて、右腕が、胸の上のあたりに回されていて、つむじの上に顎があって……。ぺったりと。そう、ぺったりと密着しているのでございます。

 抱きしめられたことは何度もございますが、これはそれとも少し違うと申しますか、どうしましょう⁉ ドキドキして恥ずかしいです!


「ほら、アレクシア。こうして捕まったらどうするんだ?」

「あ、あ、あぅ……」


 どうするとおっしゃられても。

 しっかり腕が回されているのでほとんど身動きは取れません。つむじに吐息がかかってドキドキして目が回りそうですし、楽しそうに喉を鳴らすグレアム様の笑い声がダイレクトに体に伝わってきます。


「奥様、やっちゃってください‼」


 メロディが拳を前方に突き出して、早くグレアム様をやっつけろと言います。

 無理ですよ。無理なんです。だって、グレアム様ですよ⁉ しかも、ドキドキして頭の中がぐるぐるしているのです!


「アレクシア、魔術はイメージだ。前方でなくとも、後方にも風の塊は打ち出せる」


 そういう問題ではないのです!


「風がイメージしにくいのか? だったら火でもいいぞ? 相手を燃やすイメージで」


 もっと悪いです‼ グレアム様を燃やせと⁉


「土魔術で足元に深い落とし穴を掘ってもいいが、まだ指輪ができていないからな。属性のない土魔術を使うのは疲れるだろうから、指輪ができてからの方がいい」


 落とし穴の方がましな気がしましたがダメと言われたので無理でした!


「あとは水魔術で、相手の顔の周りに水の塊を作って窒息死」


 今、「死」って言いましたか⁉ 言いましたよね⁉


 わたくしがいっぱいいっぱいになってぷるぷると震えはじめますと、グレアム様は困った顔でわたくしを抱きしめる腕から力を抜きました。


「アレクシア、さっきはうまくできたじゃないか。何がわからなかったんだ?」


 わかるわからない以前の問題ですよ!


「グ、グレアム様に攻撃なんてできません……」


 涙目になってわたくしが訴えますと、グレアム様がひゅっと息を呑みました。

 そして――


「ちょっと! だからおさわり禁止です! セクハラ‼」


 何故か、ぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまいました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る