身を守る魔術を練習します! ……でも、恥ずかしいです。 1
異母姉のダリーンが行方不明になったそうです。
デイヴさんからその話を聞いた翌日も、まだ詳細まではわかっていないとのことで、引き続きロックさんが情報を集めています。
グレアム様は異母姉がいなくなったことについて何か懸念材料があるようで、難しい表情をすることが多くなりました。
「アレクシア。今日から自分の身を守る魔術の練習をしよう」
「身を守る、ですか?」
朝食の席でグレアム様が真剣な顔でおっしゃいました。
「ああそうだ。念のためだがな。もし何かが起こって、その時に俺がそばにいなかったときでも、できるだけ危険が回避できるように」
「危険……」
もしかしなくても、何かが起こるかもしれないのでしょうか。
わたくしは小さな結界の魔術は使えるようになっています。ですが、結界の魔術だけでは足りないということでしょう。
グレアム様の懸念が何かはわかりませんが、わたくしも、グレアム様のお手を煩わせずとも自分の身は自分で守れるようになりたいので、もちろん異論はございません。
と、いうことで、朝食の後から早速、グレアム様から身を守る術を教えていただくことになりました。
しっかりと防寒対策をしてメロディとともに庭に降りますと、グレアム様が庭に何やら木の棒をいくつも立てているところでした。
「結界の魔術はもう教えただろう? 今日は、襲ってきた相手に風の塊をぶつけて吹き飛ばす方法を教える」
「身を守るというより、すでにそれは反撃ですね」
メロディがすかさず突っ込みます。
「何か問題が?」
「いえ、ありませんよ。護身術は覚えていただいていたほうがいいですし、奥様の場合は武術より魔術での護身術の方が絶対にいいでしょうからね」
そうですね、武術はちょっと自信がありません。その……わたくしは、どんくさい方ですので。
でも、魔術はグレアム様も覚えがいいとほめてくださいますから、頑張ればなんとかなると思うのです。
「最初はあの木の棒を人だと思って、あれに向かって風をぶつけてみろ。こうするんだ」
グレアム様が前方に手をかざしました。その直後、びゅっと大きな音を立てて、虚空を切り裂くほどの強い風が木の方に飛んでいきます。
それは、一瞬のことでございました。
「す、すごいです……」
グレアム様が風をぶつけた木の棒は、木っ端みじんに砕け散りました。ええ。砂粒レベルまで砕かれています。
……あの、本当にあの威力の風を人にぶつけて大丈夫なんですか?
あんなものがぶつけられれば、命まで奪い取ってしまいそうに思うのですが。
風の塊というよりは鋭いいくつもの刃のようでしたし、護身術の範疇を超えているような。
それなのに、メロディは何度も頷きながら「これができるようになれば安心ですね!」などと言っています。
この二人の中の護身術とはいったい……。
「よし、やってみろ」
「……は、はい」
大丈夫ですよアレクシア。あれは木の棒です。人ではありません。ちょっと威力が強くたって、誰も怪我はしないのです。
グレアム様が補助としてわたくしの背後に立ってくださいます。
グレアム様の腕がわたくしの腰に回るとメロディがぴくりと眉を跳ね上げましたが、「教えるためだ!」とグレアム様がおっしゃいますと文句は出ませんでした。
実際、グレアム様はわたくしの手を取って導いてくださっていますからね。メロディ、これは教えるためにしているのですよ。
だから、わたくしも、ドキドキしてはダメなのです。
握っていただいた手が温かいなとか、グレアム様の呼吸を近くに感じるなとか、余計なことを考えてはいけません!
「あの棒に狙いを定めて。いいか、風をぎゅうぎゅうに押し固めるイメージだ。塊でもいいし、剣のようなものを想像してもいい。想像が固まったら、あれに向かって……。いくぞ。たたきつけろ!」
「はい! 風よ!」
わたくしの掛け声とともに、イメージしていた見えない風の塊がびゅっと飛んでいきます。
刃は怖いので、握りこぶしをイメージしてみたのですが、それが木の棒に当たって、棒を真っ二つにへし折りました。
「で、できました!」
「ああ、いいな。威力は充分だ。このくらいあれば確実に背骨を折れる」
……ええっと、背骨を折ったら、相手の方は死んじゃいませんかね?
思わずびくっとしてしまいました。ちょ、ちょっと威力を調整しませんと本当にまずい気がしますよ。
それなのに、グレアム様はこともなげに言いました。
「よし、次は対人での練習だな」
「へ?」
……あの、本当に死人が出ませんか⁉
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