闇の魔石を探します 2

 支度をすませて、必死に顔の熱を冷ました後で、わたくしは城の玄関へ向かいました。

 グレアム様と、それからロックさんがお待ちです。

 わたくしの専属護衛のオルグさんの姿はありません。

 と言いますのも、コードウェルからオーデン侯爵領のハクラの森まで少々距離がございますので、風の魔術で空を飛んでいくのでございます。


 わたくしはまだ長距離を安定して飛ぶことはできませんので、グレアム様が抱えていってくださるどうですが、さすがにオルグさんと二人を抱えるのは無理なので、オルグさんはお留守番なのです。

 ロックさんは鳥の獣人さんですから、ひとっ飛びですもの。問題ありません。


 ……ロックさんは諜報隊の隊長さんなのに、グレアム様に何かと便利屋扱いされていますね。ロックさんも口ではたまに愚痴を言うものの、それを受け入れているようです。


「革袋は持ってきたか?」

「はい! こちらに!」


 わたくしは腰のベルトに括り付けた革袋を見せます。ここに、採掘した魔石を入れていくのです。

 前回エイデン国で魔石を採掘したときは、グレアム様はオルグさんに持たせていたのですけど、今日は三人ですし、鳥車もありませんからね。各自が持たなくてはなりません。


「では行こうか」


 そう言ってひょいっとわたくしを横抱きに抱え上げたグレアム様に、見送りに来ていたメロディがじっとりした目を向けました。


「……おい、これは移動のためやむなくてだな」

「やむなく、って顔ではありませんけどね。奥様のお尻とかなでなでしたらダメですよ」

「するか‼」


 なんだか、日に日にメロディの中のグレアム様の信用がなくなっていくような……。いえ、きっと気のせいです。お二人は乳姉弟の関係ですもの。軽口をたたきあってじゃれているのです。

 メロディが、わたくしを見て、キリッとしました。


「奥様、くれぐれも勢いをお忘れなく。こうですよ。角度はこのくらいです」


 ……あの、メロディ。わたくし、グレアム様を殴ったりしませんよ?


 キリッとした顔で腕を振りかぶるメロディに、ロックさんがぷはっと吹き出しました。


「メロディ、その顔やめろ」

「わたしはこれでも真面目なつもりなんですが……」

「真面目に旦那様を殴るようにお勧めするのはどうなんだ、娘よ」


 同じく見送りに出てくださいましたデイヴさんが「はー」とこれ見よがしな溜息を吐きました。


「お父さん、これは重要な問題よ」

「わかったから。出発が遅くなる。冗談を言うのはそのくらいにしなさい」

「冗談じゃないのに……」


 デイヴさんに止められてメロディは不服そうです。


「デイヴ、夕方には戻るが、留守を頼む」


 オーデン侯爵には、十日ほど採掘の許可をもらったそうですが、オーデン侯爵領に泊まるわけではありません。風魔術を使えば時間もかからず往復が可能ですから、午前中、もしくは昼過ぎに出かけて夕方帰るのです。


 今日は初日なので、長めに時間を取ろうということで、午前中から参ります。なので、お昼ご飯を詰めた、持ちやすいようにとってのついたバスケットを、大きな鷹の姿になったロックさんが、かぎ爪でがしっと掴みました。

 わたくしを抱えたグレアム様の体が、ふわりと宙に浮かびます。


 ……出発ですよ!



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