お側にいたいのです 1
エイデン国で五日間をすごし、わたくしたちは無事コードウェルに戻ってまいりました。
魔石をたくさん得られたグレアム様はホクホクです。
大きな光の魔石は使い道をまだ決めかねているようですが、ほかの魔石は、魔術具研究に役立てるとおっしゃっていました。
大きな魔石もたくさん得られましたので、いい魔術具が作れそうだと嬉しそうです。
魔石以外にも、ご正妃様が、エイデン国で作られた布をたくさんお土産にくださいました。
お留守番をしてくれていたマーシアとデイヴさんにおすそ分けしてもまだまだたくさんありますので、わたくしやグレアム様の服に仕立てることになりました。
それでもまだあまりそうですので、手触りのいい布を選び、わたくしはマーシアに教わりながら枕カバーを作ることにしました。グレアム様にプレゼントするのです。
クレヴァリー公爵領での内乱にはじまり、エイデン国の訪問で中断されていた魔術のお勉強も再開されました。
魔石がたくさん手に入ったので、せっかくだから魔石の扱いを練習しようということになりまして、グレアム様のお部屋で魔石について教えていただくことになりました。
「魔石の属性は、風、火、土、水、光、闇の六属性というのは教えたと思うが、魔術具を作る以外にも魔石があればできることがたくさんある」
グレアム様はローテーブルの上に魔石を六種類並べました。
光属性の魔石と、ほかの風、火、土、水の魔石はエイデン国で採掘したもの。闇属性の魔石は、グレアム様が所有していたものだそうですが、小指の先ほどの大きさでした。これも、グレアム様がツテを使って大金をはたいて購入したものだそうです。エイデン国で見つけた光属性の魔石は大きすぎて、値段が付けられないと言っていました。エイブラム殿下がおっしゃったとおり、まさしく国宝級なのだそうです。
「人や獣人、魔物に限らず、魔力には属性というものがある。人は稀に複数の属性を持っていることがあり、俺は五属性。アレクシアも、俺が確認できるだけで四属性の魔力を持っているようだが、それでも持っている属性の中で強い弱いがあるんだ。俺は水の属性が一番強い。アレクシアは火だな」
グレアム様は風、火、土、水以外に光属性をお持ちだそうです。
わたくしは、グレアム様がおっしゃるには風、火、水、光、の四属性だろうとのことでした。
光と闇属性の魔力はすごく珍しいそうなので、グレアム様もわたくしも珍しい人間なのだそうです。
持っていない属性の魔術も、練習すれば使えます。
けれど、持っている属性の魔術の方が扱いやすく、また高度な魔術が使えるそうです。
「持っていない属性の魔術は、手練度合いや魔力量によって変わるが、高度な魔術になればなるほど扱いにくくなる。そういったときに、魔石の補助を使うんだ」
魔石に魔力を込めるときは、特に属性を気にしなくてもいいそうです。
そして魔力を込めた魔石を補助として、魔術を行使すれば、自分が持っていない属性の魔術も扱いやすくなるとのことでした。
「アレクシアはどの属性でも中級くらいまでは楽に使えるだろう。だが、上級以上になると、保有していない魔術を使うときは魔石の補助があった方がいい。その方が消費魔力も少なくてすむし、何より楽だからな」
つまり、わたくしが保有していない土と闇の魔石は持っていたほうがいいということでしょうか。
「闇の魔石はこれしかないから、今度アレクシア用の闇の魔石を探そう。土の魔石はこれをやるから、持っているといい」
そう言って、直径五センチ程度の土の魔石を一つわたくしの手に乗せてくださいました。
「魔石にはほかにも使い道はあるにはあるが、それについてはおいおいな。今はこの魔石に魔力を込めて、魔術の補助に使う方法を教えてやる」
「はい!」
土の魔石は、白っぽい半透明の色をしていました。グレアム様に教えていただいたとおりに魔力を込めていきますと、キラキラと輝きはじめます。
「じゃあ土魔術だが……部屋の中で強い魔術を使うわけにもいかないからな。そうだな……。よし、アレクシア。少し寒いがバルコニーへ行くぞ」
グレアム様が手を引いてくださいましたので、わたくしはバルコニーへ向かいます。
コートを羽織っておりませんので少し寒いですが、先ほどまでいた部屋の中が暖炉の炎で温められておりまして、体が充分ぽかぽかしておりましたので、それほどではありません。
「ここから見える庭の、そうだな、あのあたりに魔術で穴でもあけてみてくれ」
「わかりました」
庭には雪が積もっておりますが、グレアム様が指さした先は、雪の下には地面があるそうです。石畳に魔術を使いますと元に戻すのが大変ですが、地面なら埋めればいいから大丈夫だとグレアム様がおっしゃいます。
わたくしは両手で魔石を握り締め、グレアム様から以前教わった土魔術を使いました。
「土よ……」
わたくしはまだ言葉にした方が魔術が使いやすいため、口の中で小さくつぶやきます。
直後、手の中の魔石が強く輝き、ボコッと大きな音を立てて、庭に巨大な穴が開きました。
「……あー」
グレアム様が、大きな穴を見て頬をかきます。
おかしいです。今のは初級魔術のはずですのに、以前教えていただいたときとは比べ物にならないほどの大穴が開いてしまいました。
……これが、魔石の力。
以前よりも扱いやすかったのに、以前よりも威力が大きいなんて。
「まずいな。早く戻そう。さもないと……」
「旦那様‼」
「遅かった……」
グレアム様が頭を抱えるのと、バーンと扉が開け放たれたのは同時でした。
「何を考えているんですか旦那様‼ 今すぐ元に戻しなさい‼」
目を吊り上げて、腰に手を当てて仁王立ちのマーシアが、グレアム様を叱りつけました。
「マーシア、あれは、わたくしが……」
犯人はわたくしですから、グレアム様を叱ってはいけません。
ですのに、マーシアはにこりとわたくしに向かって微笑んでから続けます。
「奥様が独断でなさるはずはありませんから、旦那様の指示でしょう? まったく、小さな子供でもないのに庭に落とし穴を掘るなど、何を考えていらっしゃるのか」
「マーシア、落とし穴を掘ったわけじゃ……」
「言い訳は結構です‼ 早く元に戻しなさい‼」
いたずらをした子供を叱る母親の顔でマーシアがグレアム様に命じます。
グレアム様ががっくりと肩を落として、庭の大穴を一瞬にして元通りにしました。
マーシアが満足そうに頷きます。
「よろしい。では旦那様、奥様、そろそろ昼食のお時間ですよ」
ハッとして時計を見れば、お昼をさしていました。
今日の魔術のお勉強はここまでのようです。
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