魔石発掘へ向かいます 2
「アレクシア、足元に気をつけろよ」
差し出されたグレアム様の手を握り、わたくしは積もった雪の上を慎重に歩きます。
魔石は、ここにある、と決まっているわけではなく、それこそあちこちに存在しているそうですが、雪が深いので見つけるのも大変です。
魔石に魔力が残っていれば感じ取れるそうなのですが、魔石化したばかりのものであれば残っていることがあるそうですけど、年月が経つにつれ、魔石に残っている魔力は自然と薄まっていきますから、気づきにくくなるのだそうです。
「もう少し奥まで行って、雪を解かすか」
エイブラム殿下が奥の方を指さしておっしゃいます。
魔石は死んだ魔物の血液が年月をかけて石化したものですから、魔物が多く生息している場所ほど多く存在します。
エイブラム殿下によると、森の入り口には強い魔物はほとんどいないため、魔石が見つかっても小さくて品質の低いものばかりなのだそうです。
奥に行くにつれて生息している魔物も強大になりますから、いい魔石が手に入りやすくなるのだとか。
魔石にも魔術と同じで、風、水、土、火、そして光、闇の六属性があるそうです。これは、生前の魔物がどの属性を強く持っていたかによって変わるそうです。光と闇の属性を強く持つ魔物は非常に数が少なく、ゆえに滅多に魔石も手に入らないため貴重だとか。
……貴重な魔石を発見したらグレアム様は喜ばれるはずです。わたくし、頑張って探そうと思います。
「アレクシア、抱えるぞ」
奥に行くにつれて、足場が悪くなります。
わたくしがおぼつかない足取りで歩いているのに気付いたグレアム様が、一言断ってから、わたくしを横抱きに抱き上げました。
びっくりして目を丸くするわたくしに、グレアム様が片眼をつむって「メロディには内緒にしていてくれ」とおっしゃいます。メロディに知られたら、また「セクハラ!」と言われますから。
わたくしは急に近くなったグレアム様の顔にドキドキしながらこくこくと頷きます。
グレアム様はわたくしの歩調に合わせてくれていたのでしょう。わたくしを抱えた途端、歩く速度が上がりました。
エイブラム殿下がグレアム様を振り返り、歩く速度を上げても問題ないと判断したのか、歩調を早めました。
「あの、重くはございませんか?」
ただでさえ足場が悪いのに、わたくしを抱えていては、グレアム様がおつらいのではないでしょうか。
「アレクシアは軽いから、このくらいなんてことはない」
そうおっしゃいますが、グレアム様に嫁いでからそれまでよりたくさん食べるようになりましたので、体重も増えていると思うのです。
心配になって、後ろをついてきているオルグさんを見ますと、オルグさんはニカッと笑って親指を立てました。
……ええっと、グレアム様に任せておけばいい、ということでよろしいでしょうか。
わたくしは歩くのがゆっくりでしたので、この方が早く移動できるのは間違いないと思いますけれど……。わたくし、足手まといですね。
ご迷惑をおかけしてしまったので、ここは、すごい魔石を発見して、少しでもお役に立たねばなりません。
魔石化して時間がたったものは魔力が残っていなくて感じ取りにくいとお聞きしましたが、逆を言えば、魔石化して時間がそれほどたっていないものは、魔石に魔力が残っていて感じ取れるということです。
わたくしは感覚を研ぎ澄ませ、周辺の魔力を探ります。
グレアム様に魔術を教えていただいている過程で、魔力の感じ取り方は何度も練習して覚えましたので、これは得意なのです。
グレアム様の腕の中でぎゅっと目を閉じ、魔力を探っていますと、一つ、大きな魔力を見つけました。
「グレアム様、魔石があるかもしれません」
「なに?」
グレアム様が足を止めます。。
エイブラム殿下たちも歩くのをやめました。
「この辺はまだ入り口のあたりだ。あってもそれほど強い石はないと思うぞ」
エイブラム殿下はそうおっしゃいますが、感じ取れる魔力はそこそこあると思うのです。
「いや、せっかくアレクシアが見つけたんだ。探してみよう。アレクシア。どのあたりだ?」
「ええっと、あっちです」
グレアム様が地面に下してくださいましたので、足元に気を付けながら魔力を感じ取ったところへ向かって歩いていきます。
しばらく歩きますと、グレアム様の表情も変わりました。
「これは……」
「光属性じゃねえか」
グレアム様もエイブラム殿下も気が付いたようです。
先ほど感じ取ったときには属性はわかりませんでしたが、ここまでくればわたくしにも属性が感じ取れます。エイブラム殿下のおっしゃる通り、光属性です。
「こっちだな」
「はい!」
グレアム様もしっかり魔力を感じ取ったようで、わたくしをもう一度抱き上げると、ずんずんと前に進んでいきます。
そして、魔力のある場所でわたくしを下ろすと、雪に手をかざして、半径一メートルほどの雪を一瞬にして魔術で解かしてしまいました。
「あった!」
「おい、でかいぞ」
エイブラム殿下がグレアム様が拾い上げた薄い黄金色の魔石を見て目を瞬きました。
魔石は、グレアム様の手のひらほどの大きさです。以前、コードウェルでお湯を沸かす魔術具を見せていただいたときに、表面についていた魔石は親指の先くらいの大きさですから、比較すればこの魔石がいかに大きいのかということがわかります。
「このレベルの魔石になる魔物なんて、森のずっと奥に行ってもそうそういないだろう。移動中に死んだのか?」
「そうかもしれない。アレクシア、でかした! こんな大きな、しかも光属性の魔石は見たことがない」
「ちょ、ちょっと待てグレアム! さすがにそれは……」
「陛下は採掘したものはくれると言っただろう?」
「……あのさ、その大きさの光属性の魔石って言ったら、国宝扱いになるんだぞ?」
「そんなことは知らんな。陛下から言質は取っている。しかも見つけたのはアレクシアだ。だからこれは俺のものだ」
グレアム様がにこにこと笑いながら言います。その笑顔は少し悪い笑顔でしたが、楽しそうなのでわたくしも嬉しいです。
「親父が知ったら泣くな……」
やれやれとエイブラム殿下が息を吐きましたが、魔石をグレアム様から奪い取ろうとはしませんでした。国王陛下とのお約束ですからね。
「アレクシア、少し重いが持っていてくれ」
グレアム様がわたくしに魔石を手渡して、わたくしをまた横抱きに抱え上げました。
「ほら行くぞ」
「……ああ、もう。仕方ねえ。約束だ。行くか」
エイブラム殿下があきらめたように肩を落として、森の奥へ向けて歩き出しました。
結果、この日は大小さまざまな魔石を合計二十個も発掘することができましたが、光属性の魔石はわたくしが見つけた最初の一つだけでした。闇属性の魔石も見つけられませんでしたから、この二つの属性の魔石がいかに貴重なのかがわかろうというものです。
ちなみにわたくしは、最初の光属性の魔石以外に、水属性と風属性の魔石を発掘しました。
雪を解かしても土に埋まっていて見つけにくいのに、よく見つけられたなとグレアム様もほめてくださいました。
お役に立てたようで、何よりです!
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