過程


「ねぇ、同じ自分なんだから遠慮何て要らないんだよ?」


「体も・・・」


「声も・・・」


「漏れ出る吐息も・・・ハァ・・・ッー・・・」


「ふーーーーっ・・・ふふっ!」


「ちょっとした身動きでさえも・・・貴方の好みでしょう?」


「ふふふっ・・・あははっ!」


「んふふふ・・・やっぱり好きよねぇ?こういうーのっ!」


「なぁーに?はしたないってーー?聞こえなーーーいっ!!」



貴方は今、古い教会の中に居ます。


教会の聖女とやらが描かれた何処か目の前の彼女と姿が似ているステンドグラスが半分程砕け散っているほど荒れています。


天井からは光が差し込み空が良く見えます、とても風通しも良く清々しさすら感じます。


耳元で誘惑するように貴方を揶揄う彼女は貴方を夢の中からここへと結婚の承諾をした瞬間に連れ込みました。


くるくると誰もいない壊れた――まるで何かに襲撃された様な教会とその教会のシンボルと言える何かの像があった場所でじゃりじゃりとリズミカルに彼女は楽し気に踊り回っています。


結婚出来るのが嬉しくて仕方がないのだ、と。


そう彼女は貴方へと囁きました。


貴方は冷や汗を流しながら見晴らしの良い丘の上に立つ教会から辺りを見渡します。


見渡して、しまいました。



「――――どう?」


「ここが異世界、だよ」



十字架によって埋め尽くされた滅びた村の風景がそこにありました。


貴方は今更ながらに自分は何かとんでもなく得体の知れない婚姻届けに判をおしてしまったんじゃないだろうか?


夢の中からずっとなかった現実感に墓標という重さを見てしまった為に自分の身に起きている事の異常さに体が震えます。


と、同時に。


貴方は一つの疑問を抱きました。


目の前の女の子は――もう一人の自分であるといった彼女は・・・一体何者であるのだろうという疑問です。


彼女曰く、自分は異世界に転生して神様にチートを貰ったものの性転換してしまったもう一人の自分と言っていましたがそれだけでは明らかに説明が足りないからです。


とはいえ貴方は嘘は言っていないのだろうと思いました。


そう、嘘は言っていないが言ってない事があるだけ。


貴方は人を煙に巻くタイプの人間でした。


そう、という事は当然彼女も。


『何故結婚なのか?』『滅びた村』『神様チート』『無数の墓標』『壊れた教会』『異世界の自分である必要』『異世界の自分は女』『その世界の生活』『教会の聖女』『魔法』『信仰する宗教という存在』『切っ掛け』『最後の願い』



「えへへいざ結婚ってなると緊張しちゃうなぁ~・・・あれ?」


「ねぇ・・・」


「ど うした の ?」


耳から聞こえる情報が、脳の中にあるヒントと混ざります。


その瞬間、最後のヒントが貴方の眼に映りました。



『目の前の女の子の涙』



神様にするお願いはもう決まっているのかい?


貴方は目の前の全てを失ってしまったのであろう可哀想な女の子にそう答えました。

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