虫の知らせ

西南戦争中の8月のこと。

「痒か,,,」西郷がそう思って額を掻くと、表面が少し膨れている。どうやら蚊に刺されたらしい。

「先生、どげんしもした?」そう聞いてくる仲間に

「ああ、ちいと蚊に食われもした」と西郷はなお額を掻きながら答えた。

「先生、そげん掻いたらより膨れもんそ。氷があったらよかったんに,,,」そうつぶやく仲間を見て、突然西郷は笑い出した。

「どげんしもした?」そう驚きながら問う仲間に西郷は言った。

「いや、とある男に患部と一緒に頭ば冷やせ言われちょるように思ってな」それを聞いた仲間は少し困惑した表情を見せたが西郷は気に留めなかった。

”木戸さあ、まさか蚊になってまでおいを説得しに来たんじゃなかろうな。おいと話ばしようとして5月に亡くなったち噂できいたが,,,いや、そげんことはさすがになかか”西郷はかゆみを増した額に触れながら静かに空を見上げた。

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