無視できない人々

@anomaron

蚊の唾液

”蚊に刺されちょる”木戸孝允は少し赤くなった腕を見ながらそう思った。

”それにしても蚊っちゅうんはあいつに似ちょる”木戸は不器用すぎる同僚、いや、政敵といってもいいかもしれない男のことを思い出していた。

”蚊の唾液にゃあ刺した痛みを緩和させる効果があると聞いたことがある。だがその唾液がかえってかゆみを引き起こすんじゃげな。思いやりの空回りたぁこねーなことじゃのぉ”木戸は誰もいないとわかっていながら窓の外に目をやった。この頃、大久保がせわしなく働いていることを木戸は知っている。それはもちろんこの国のためでもあるのだが、それ以上に西郷を政府に戻そうと苦心しているからだ。それでも、西郷にその思いは伝わらない。

”まるで西郷を守ろうとして、かえって苦しめちょる大久保のようじゃ”木戸は視界の隅で見つけた蚊を殺すことなく見過ごした。


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