第2話
あぁ、これは何がよくないことが起こる。
目の前でにこにこ笑う教師を見て、太宰は心の中で警戒心を強めていた。奇妙な事件に巻き込まれてから五日前のことである。笑っている教師は下級貴族である。生徒を教え導く立場では教師といえども気軽に公爵家の娘に雑用を頼める立場ではない。
そんな教師が今、太宰に荷物を持っていてくれないかと頼んでいた。
そもそも学園にはこうした雑用をこなさせるようの身合の低い下働きがいる。それらに頼まず生徒にまして、公爵家の娘、王子の婚約者に頼むなんて普通なら絶対ありえないことだ。
「すみません。私これから用事があります故、そのようなことは……」
「ごめんね、貴方しかいないのよ。お願いね」
まして断って尚押し付けてくるなど首にされても文句の言えないこと。ありえないこと。普通なら、何かあると言っているようなものであった。いやですともう一度口にする。手の中に荷物はおしつけられてしまった。
吐息が太宰からでていく。
頼まれた場所はここからだと噴水のある広場を通さないといけない場所。噴水広場といえばビオーナが悪役であると分かりやすく全体にしめされる場所だし……、そこにどうしても行かせたいってことなのかな。
でもゲームの中のこの子は何を持ってなかったはずだけど……。でも避けた方が
いい子はするのだよね。仕方ない。
歩きながら考えていく太宰はその途中、外も見ていた。外には誰もいない。廊下にも誰もいなかった。
ここは二階だ。
確認にし太宰は自然な動きで窓に近付き、そしてそこから飛び降りていた。さんに器用に足をつけて地面に着地している。
(できてよかったけどヒールでこれはちょっと恐いな。ヒールの靴ははかない方がいな。靴屋に頼んで低いものを用意してもらおう)
外からまわって太宰は目的の部屋へと荷物を置いていた。
(さてと妙なことが起こると厄介だ。今日はもう帰ってしまおう)
「ああ、ビオーナ嬢、丁度良い所に」
噴水とは逆方向に行こうとしていた太宰はそのまま歩いた。だが名前を何度もよばれて立ち止まる。無理矢理いくにはその声は大きかった。
また教師だ。
「申し訳ないがこれを運んでもらえないだろうか」
(そこは噴水のすぐ隣。ここから行くにはやはり……)
「わかりました」
笑みを浮かべた。でもその心の中は嵐だった。
ありがとうって言って教師が噴水方向に去っていくのを笑みに隠して冷ややかに見守っていた。周りには人がいた。
外にも人がいた。
(なるほどね。どういうわけか噴水に私はいかなくてはいけないということか。いかない限りこうして雑用を頼まれ続けるのだろう。今日一日終わるまでそうしていいげど。
明日も同じことが起こらないと果たして言えるのだろうか)
太宰は用がある噴水方向とは反対向きに歩いていた。そして一つの部屋に入る。部屋の中には人はいないが、外には人がいる。
(妖精、私の手の所にでてきて)
窓から決して見えない位置に手をおいて妖精を呼ぶ。妖精はその位置にちゃんとでていた。
「私ずっとどうして私に断罪を回避させようとするのか不思議だったのだよ。助けたいのなら本人に君が知恵を貸してあげればいい。なのに何故それをしないのかって、ねぇ、これはどう回避しようと物語通りことか進むようになっているのだい」
太宰の声は柔らかだった。だけど小さなものをみる目は冷ややかだった。妖精の手が握りしめられている。
「その通りです。どう動いても物語には回避されず、決まった未来に進みます。それを何度も繰り返してビーオナ様はついに心を壊したのです」
「それで代用品として私を選んだのか。で、今日は噴水に行かず終わったとして明日はどうなるの」
「それは四回目の時試しております。明日もまた今日と同じことが起き、それを回避し続けるとそして明日も行かなくても明後日も同じことが起き、それを回避し続けると今度は何処かの階段で同じようなことが置きます。噴水と違い被害は酷く一気に悪評が広がります」
「ok。じゃあ、いやだけど噴水に行くや。もう隠れていいよ」
妖精がいなくなるとすぐに太宰は動いていた。今度は噴水に向かって歩いていく。噴水のある広場につくと王子とヒロインが仲良く笑い、そして抱擁しあい、王子が去っていくのが見える。
(婚約者もいる癖に堂々としたものだよ。そりゃあゲームの中のビオーナ様も一言言いにくいってものさ。私はスルーだけど)
ボキリと、太宰が歩く道で音がした。足元をみると小枝がある。
(なんてベタな。にしても物語への強制力と言うのは厄介だわ。先程までこんな枝一本たりとも落ちてこなかったのに)
はっとヒロインが振り返っていた。その顔が青ざめるからごきげんようってにっこり笑って去っていく。関わらないが勝ちだ。
これでもうイベントはおきないと思ったのだが、ヒロインの足元が何故か崩れて倒れていた。ばんって背中がら噴水に落ちていく。太宰の目は冷たくそれを見ていた。近付くことはしない。
何ならわざと足を捻って尻もちをついておく。
「何が起きた!」
王子がすぐに駆け寄ってくるからだ。大丈夫かってかけよる姿はまあ、格好良いのかもしれない。このあとすぐに他も来るが面倒なのでさっさと終わらせたかった。
きっと王子の目が太宰を睨む
「ビオーナ、貴様の仕業か」
「はぁ? 何をどう見たらそう見えるのですか。私の位置から何ができると? 更に言うと私が彼女を噴水に落とす理由がありませんわ。だって私もう王子のことなどどうでもいいですから。
この国が好きでこの国を思い王子の婚約者としての責務を果たそうと思っておりましたが、よくよく考えると作法に勉学と婚約者として必要を教養を身につけるため、貴重な青春の時間すべて奪われ、大人になったらより多くの時間を奪われることが確定しているものにしがみつくのもバカらしい。しかも他の女にうつつを抜かしているバカを夫にしなくちゃいけないなんて、最悪すぎますからね。ではこれで失礼いたします」
にっこりと笑って太宰はその場を去ろうとする。人は集まってきていた。去る直前太宰は振り返る。
「そうですわ、王子。彼女の大事でしたら靴も新しく買ってあげたらどうでしょうか。どうも滑りやすいようですから。では」
カツカツと音を鳴らして歩く。そうしてから太宰は集まっている生徒の一人に声をかけていた。
「申し訳ないのですが、彼女に毛布を取ってきてあげてくださる。
私の名前を言えば用意してくださると思いますから」
「はい」
(さて……、何とか逃れたけど……。これからも物語の強制力につきあわされるとなると大変だね。その前に……)
「寝不足で死にそうだけど」
己の布団の中で起きた太宰の顔はもはや揺らぎのようだった。
「……まあ八日もまともに寝てなくてもまた死んでいないということは、恐らくある程度は眠れていることなのだろうね。
それにしても必要分たりてないのは間違いなく……死ぬな。まじで後数目これが続けば死ぬ。はぁ。起きるのすら辛っ……」
つらつらと太宰が言葉を零す周りに人はいない。静かなものだそれでも呟き続けるのは元からこういうタイプだったのではなく、今は何かしら動いていないと倒れてしまいそうだったからだ。
己の体に化粧など施して何とか人の姿になりながら、太宰は動いていく。
「さてと、今日も仕事に行きますか」
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