第1話
目を開けると薄い色をしたカーテンがまず目に入る。瞬き二つ、そこから視線を動かして近い位置にある天上を見上げる。
と言っても素材は布。ふわふわ覆われているだけだ。はぁって吐息がでていく。
「分かっていることだとは言え、こうして目覚めてしまうと結構来るね。で妖精君ははでてきてくれないのかい」
「私はここにいます。他の人に見えないよう普段は隠れておりますが、呼んでいただければこうして姿をあらわします」
「そう。分々ったよ。じゃあ、今はもういいよ。仕事をサボって一日ゲームしてきたから大体のことは分かった。
今日から本格的に断罪回避に向けて動いていくよ。
『私はアーク·ビオーナでしてよ。これぐらいのことどうってこともありませんわ』」
ふふって口元を小さく、だが自信満々に持ち上げれば、無であった妖精がかすかに動いていた。
「ビオーナ様……」
「ふふ。貴方にこそんな顔をしてもらえたということは、私の演技は完璧と見て問題なさそうですわね。ではいってまいります」
ビオーナの姿で太宰が向かったのは彼女が通っていた学園であった。
プレイしたゲームによるとそこは貴族の子供達が通うセレブの学園であり、貴族の子供達はそこで貴族としての立ち居振る舞いを学んでいくのだそうだ。彼女はその学園の中心的な人物である。
と言っても本人が学園内を支配しているわけではなく、生徒の多くが羨望の眼差しを向け、彼女が何か言えばそれを是とすることから中心人物ともくされているだけであったが。
彼女にそれだけの影響力があるのは学園で五本の指に入るぐらいの成績の持ち主
であること、そして、王国を支える四つの公爵家、その一つ、一番力を持つビオーナ家の長女であり、この国の第一王子と婚約していることが理由であった。
つまりアーク・ビオーナはお姫様なのだ。
だが断罪される。理由は王子が他の女に現を抜かし、それを注意したら余計に仲がこじれてしまった挙げ句に辛抱たまらずその女をいじめてしまったからだった。
たったそれだけだか王子はよほどその女、ゲームで言う所のヒロインに骨抜きなのか島流しにされてしまうのだ。
そこまでは恋愛ゲームとしてありきたり。ただときめいていられるが、ここからは血生臭くなる。ゲームに乗ってなかった島流しにされた地は相当治安がの悪い場所で立ち入ったら最後、死体となってすらでることができない場所なのだそうだ。
つまりは島流し=死刑のようなものだ。
だから妖精も死刑といったのだろう。
太宰はそれを回避しなければならないのだ。
自分が死なないために。
正直死ねるのならそれはそれでいいのかなと思わなくもないのだが、どうにもいやな予感がした。なので今のところは回避を目指すつもりだ。
それをどう行っていくのか作戦を練りながら大宰は学園を見上げた。
昨日の散歩の時、遠くから少しだけ見ていたが中々広い。広すぎて迷子にならないか流石に不安になりそうな広さだ。ゲームはやったが学園内のの詳しい地図なんてものはでてこなかったのだ。
それを見越してかなり早めに来ているので問題にはなりそうはなかったが。
「妖精君、でてきてくれるかい」
周りに人がいないのを確認して妖精を呼ぶ。彼はすぐにでてきた。
「さぁ〜〜て、学園内の案内を頼めるかい。人がこない間にすませたいから、最初に職員室に行ったら次からは彼女が良く行く場所を重点的に頼むよ」
「分かりました」
学園の探索は一時間程かかった。学園内が広すぎて、それでもすべてを回りきることはできなかったが、大まかなところは太宰がこれから活動していくのに問題がないほどにはなっていた。人もチラホラと来だしたので妖精は隠して自分の教室へと向かっていく。
学園の授業のしくみは日本のものと同じらしく、ヒロインとは違う教室であった。ただ王子や他数名の攻略者達とは同じであった。
今が物語が何処まで進んでいるのか分からないが、王子やヒロインそれぞれに忠告するイベントが済んでいればきっと嫌な空気が漂っているだろう。
どんな空気だろうと気にしてあげるほどの繊細さは持ち合わせていないのでいいが、ある程度物語が進んでいると断罪回避がやりにくくなるのでせめて半分は進んでいないことを望むしかなかった。
でもれは周りを見る限りでは大丈夫そうであった。
「ごきげんよう」
「ビオーナ様、ごきげんよう」
あいさつをしていく周りはみんな明るい目を太宰ではなく彼女にむけている。ビオーナの悪い噂などは今の所は流れていないようでいじめなどはまだ始まっていないように見えた。
ゲームの中でビオーナかわざとではないがヒロインを水に落とすシーンのあるのだが、少なくともそのシーンはまだおきていなさそうである。
「ごきげんよう」
太宰があいさつを返すたび生徒のほとんどは笑っていた。
(いや〜〜。まさか私がお嬢様言葉使うことになるとは。外にでるようなものではないからいいけも)
何度目かのあいさつに辟易していた太宰はそんな事を一瞬考えた。でも思考はすぐに移る。目に捉えた人の前進を見ていく。
「お待ちになってくださいまく」
「はい」
そして歩いていた一人に太宰は声をかけていた。立ち止まった女性に近付いて微笑む。そっと手を伸ばして胸元に触れていた。
「タイが少し曲がっておりましたよ。女の子ですから身だしなみはお気をつけください。
貴方とっても可愛いのですから」
ふんわりと微笑む。その際少しだけ頬を撫でていく。
「ね。ミレイ様」
声をかけた少女の目は僅かに見開いていた。その口元が少しだけ動いていて……。何で、ってそんな音を紡ぎたそうでもあった。
「かわいらしい人のことぐらい知っておりましてよ。では私はこれで」
最上の笑顔、そして麗しい仕草でお辞儀をして太宰は去っていく。その姿を声をかけた少女がどんな目でみてるのか何てことは痛い程によく分かっていた。
(ゲームに出てくる以外の彼女がどんな生活をしていたのかは私にも分からないが、見ている感じだと周りの生徒と交流があるようには思えなかった。もちろん多少話したりはしているのだろうが、それでも自分から積極的な態度ではなかっただろう。
話しかけられたら話すぐらいしかしてこなかったはず。貴族としての矜持という奴か。この国で王子の次に身分が高い故に下の者に自分から話しかけるということが恐らくできなかったのだ。
遠目で見つめられ尊敬されるだけの高嶺の花。
綺麗で美しいだけのイメージを持たれていた。だからヒロインを水で落とした程度の事で騒がれた。味方の大半が奪われる事態になる。
イメージしかない相手、そのイメージの壊れたら手の平返されるのも当然。だからあとどれぐらい時間があるか、分からないけど時間のある限り声をかけてイメージを固め、私の信者を増やす。
ふっふ。昨日遠目からでていく子を見ていてよかった。
朝、職員室からもちだした生徒のリスト表とあわせて声をかけたらいい子は手に取るように分かる。
あとはもう一つだけ遠回りして……
「ごきげんよう」
「ごきげんよう。
……きゃあ! ビオーナ様にあいさつしてもらいましたわ。なんて美しいのでしょう!」
「憧れですわ」
心の中、あくどい笑みを浮かべていても太宰がそれを表に出すようなことは決してないので、すれ違う生徒達はまるで眩しいものでも見るように太宰を見ていた。
「ごきげんよう」
(ああ、なるほどね)
教室に入って感じたのは複数の殺害であった。それは弱くて太宰が気にかけるレベルのものではない。彼にとっては赤子が向けてくるものと同じで微笑んでしまいたくなるものだった。
でもそのお陰で重要なことが分かる。
(忠告はすませているのか。
となると完璧に関わらないのは無理そうだな。でもできるだけ関わらず特にヒロインとはあわないようにするのがいいね。
うふふ)
考えていることなんておくびにもださず、そして視線をむけることもなく席につく太宰を殺気を向ける男たちはじっと睨み続けていた
「ふわ〜〜あ。……ねむっ」
目を開けた太宰はその瞬間に悪態をついていた。
「動かしてるのが違う体だからか、起きたときに感じる疲労度が普段よりも多い気がするのだよね。こうなる前を含めてまだ五日まともに寝てない程度の筈だけど、疲労はまともに十日は眠れてない時のものだよ」
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