第3話 愛するコハク
白をベースに薄茶のブチ、ブチ部分がよく見ると虎柄の縞が入っている。尻尾は茶と白のシマシマ柄。きゅるるるんとまん丸お目目がキュートな我が家のひとり息子、オス猫の琥珀。
今年の8月で11歳である。
彼は白っぽい体のせいかきょうだいとは群れを成しておらず、血統から言うと叔父叔母にあたる群れに混ぜてもらっていた子猫だった。
母猫は三毛の美猫だったらしいが、
交通事故にでも遭ったのか見かけなくなっていたと言う。
ある日ささいな事で私と夫は口喧嘩をして、家の中の空気が悪くなり、夫はぷらっと出かけた。
やがて帰ってきたと思ったら、リビングのテーブル脇で寝そべって漫画本を読んでいた私に、「ほら」と、近所の畑脇の空地でつかまえた、手のひらに収まる程の子猫を見せてきた。夫なりのご機嫌取りだったようだ。
おとなしくキョトンとしている子猫の様子が可愛くて、
「かわいい!家で飼おうか。」
「子供たちにも聞いてから決めよう」
子供たちと言ってもすでに2人とも20歳過ぎで、専門学校を卒業し就職している女の子2人だ。
今まで動物を飼いたくとも飼ったことがなく、動物好きな2人が反対するはずがない。
こうしてペット不可マンションに居住しているのにも関わらず、初めての猫ちゃん飼育は始まった。
猫に対する知識が全く無く、1日目はあちらこちらにおしっこされたあげくにようやく猫砂とトイレを買ってきて、おしっこを拭き取ったティッシュをトイレに入れたり、トイレに入れて前足を持ち砂かきの仕草をさせてみたりして、どうにかトイレはすぐに出来るようになった。
子猫用のエサもよく食べた。
上の子が子猫の息が苦しそうだしクシャミもしている、と心配してすぐに動物病院に連れていくと
推定生後2か月の男の子猫であり、ひどい猫風邪を引いていて、左目も結膜炎が悪化して白濁していることがわかった。
風邪薬と点眼薬をもらい治療して、なんとか治った。ノミ、ダニ駆除もし、これはすぐ駆除できたが、回虫下しは約1年かかった。
又猫不可マンションであったことから、
猫可マンションへの引っ越しを考え、
当初は賃貸マンションから賃貸マンションへの引っ越しの予定であったが、移転のための敷金前家賃などで100万近くかかる上、毎月の家賃も安くとも12、3万はかかる。
家賃に年間120万以上かかるなら家を買ったほうが良いのではないか、と、住宅ローン審査だけ受けてみるつもりで物件を探し始めた。
オールフローリングの1階は広いリビングダイニングキッチンと廊下、トイレ、洗面室、一畳バスタブ付の広めのバスルーム。2階は3部屋の3LDKの家を物件と決めた。駅からも近く価格的にも一番安く、夫が懸念した川の近くでもなく、(地震災害の時に川の近くは危険という判断からである。)、
間取り的にも猫のキッチンへの侵入を防げる(コハクがジャンプして、シンクに入り込むのに困っていたので)間取りであったので希望どおりだった。
かくして住宅ローン審査に通り、契約を交わし、
猫可マンションを探すつもりが一戸建て取得へと相成った。
我が家はコハクのために買った猫ちゃんハウスである。
700グラム程の小さな体で前のマンションにやって来て、そこから2ヶ月ほどくらいまでの子猫期は、体が軽いこともあって恐怖感を覚える程スピードのある軽快さでリビングとダイニングルームを駆け回っていた。夜中の大運動会に睡眠を妨げられ、食事中は目を離した隙にテーブルに乗ってきて、お皿を死守するのが大変であったので、コハクにはケージに入ってもらってから食事を始めたり、やんちゃっぷりに手を焼いた。想像を超えて手がかかる。しかし可愛い。とにかく可愛い。初めての男の子ということもあって、未だにコハクにメロメロな私である。
やんちゃだがビビリでちょっとトロクサく、
荒い気性では無いのでシャーと威嚇することも無い。抱っこが嫌いで自分から擦り寄って来ることもないのが寂しい。が、少し離れた位置でちょこんと座りじっとみつめて来て、目をパチパチさせながら敵じゃないよと訴えかけてくるのが又愛しい。
鼓動の早さが人間よりずっと短命であることを
意識させ、こんなに愛くるしい存在が
いずれなくなってしまう。それを思う度
胸がキュッと苦しくなる。泣きたくなる。
愛されるためだけに生まれてきたコハク。
今はそのキュートな姿で天使っぷりを
ただただ振り撒いていてね。
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