第2話 ゲーマーとして

 速報、よく分からん心霊現象に見舞われたと思ったら、次の瞬間にはゲームの世界に居ます。


「今どき、こんな三文フェイクニュースは流行らんわな……いや、ほんとなにこれ」


 問題は全然、フェイクじゃない事なんだが……白い光で目が死んだかと思ったけど、こうして絶賛、黄昏の空に黒い草木が広がる平原と飽きるほど見た朽ちた古城跡に入ってみれば、見慣れた真紅の玉座とその後ろに聳え立つあのロキを模った銅像……うん、これロキ陣営の本拠地だね、何処からどう見ても。


「水辺で俺の今の姿を見た時も思ったけど、マジかよ……俺、マジで『Ragnarok War』の世界に来たのか……いやいやいや、無理ですよ!?所詮、ゲーム!!パソコンの向こうという安全が確立されてて難しい操作を要求されなかったから、廃人プレイヤーの一人としてあそこまで登り詰めましたよ!?でも、実際に指揮しろってのは違うじゃん!?」


 簡単な話、FPSやってたら現実の銃を撃てますか?って話だ。

 無理です!!筋力とかそういう問題もあるし、何より日本で生きてた人間に命を賭ける覚悟なんて、ありません!!それと、俺はリアルじゃ友達ほぼ居ないコミ障だってば……大軍の指揮なんて無理よ……


「あー……夢なら早く醒めてくれ〜〜単位ヤバイんだって……」


『残念だけど夢じゃないんだよねぇこれが!!』


「うおっ!?この甲高いロリボイスの癖に、妙にこちらの神経を逆撫でする気に食わない声は!!」


『あはは!!おにーさん、状況分かってるぅ?今、此処で、私の気分を害すれば……ふふっ、ジョーダンだよージョーダン!!折角、此処に呼んであげたのにすぐ処分するなんて、つまらなーいこと私がするわけないじゃん。ば・か・な・おにーさん♪』


 ほんま、腹立つなコイツ……そういう趣味の奴からしたら堪らないんだろうけど俺には無理だ!!

 

「……お許しをロキ様」


 けど、コイツが本当にロキなら俺は間違いなく消される。

 え?つまらない事する訳ないって明言してるから平気だろって?そう考えるのは、このロキという女神の悪辣さと気紛れを知らないから言える事だ……ぶっちゃけ、コイツが口にしてる事なんて何が真実で嘘か全く分からないんだから。

 現に、俺が形だけとはいえこうして謙れば、何処か気分を良さそうにしている声がって、あれ?そういや辺りを見渡してもコイツの姿は無いよな?何処から声が……


『なーにキョロキョロしてるのぉ?こっちだよーこっち、ほら、目の前の偉大な像、見えないの?』


「……この像を介して話しかけてきてたのか」


『そうだよ〜だって、まだ私が直接、そっちに顕現するには諸々が足りないしぃ?あ、でもザコのおにーさんを消すぐらいは此処からでも出来るから、安心して頭を下げてねっ♪』


 よーし、深呼吸だ……落ち着け、俺。

 相手は何千、何万、何億生きてるか不明とは言え、見た目と性格と言動はただの幼女だ。

 子供にキレ散らかす大人はいない、そうだろ俺?


「ふぅぅ……で、偉大なるロキ様が私のような下賎の者に何用で?もしかして、元の世界に帰して頂けるのですか?」


 此処は下手に……そう、気分は厳格な爺さんを煽ててお年玉を強請った小学生のように謙り、成長して学んだ敬語を活かし、胡麻をすり提出期限の過ぎた課題を教授に受け取って貰ったあの日の様に……俺、碌なことしてないな?


『アッハハハ!!さっきの話聞いてた?それとも三歩進めば忘れる鶏さん並みの知能しかないのかなぁ?』


「……やはり、聞き間違いではなかったのですね」


 クソがっ!!やっぱり、折角呼んだって言葉は聞き間違いでもなんでもなかった!!

 こういうのは異世界召喚そういうのとか望んでる奴にしろって!!俺はゲーマーだけど、別に望んでなかったぞ?むしろ、多少、ゲームに傾倒してても暮らしていける現実世界の方が好きだったのに。


『キミがいけないんだよ?まさか、制限されてるとはいえ、あの私を打ち破って魅せたんだから♪♪そーんな、面白い人この私が、悪戯と混沌をこよなく愛する者として見逃せる訳ないじゃんねぇ?だ・か・ら』


 一瞬、言葉が途切れると同時に凄まじい圧力が、銅像から発せられて気がついた時には、膝をついてしまっていた……は、ははっ、ゲームで戦ったロキが本当にロキだったってのかよ……


『私の現実リアルで、キミと戦争ゲームがしたくなっちゃった♡』


 ヤバい……蕩けるような声だけど、込められてる想いは本気だ。

 ゲーマーだからこそ分かる……この声は自分に土を付けた相手に再戦を申し込むのと同じで、今度は負けないという想いの塊、決意表明だ。

 

「はっ、ははっ!!」


『んぅ?』


 何もかも気に食わない神だが、そのゲーマー精神だけは認めてやる!!そうだよなぁ、負けっぱなしは悔しいよなぁ!!自分に絶対の自信があればあるほど、負けた時の悔しさってのは半端なくデカい!!そういう経験、山ほど積んでるから俺にはよーく分かる──


「良いぜ……受けて立ってやるよ……そしてもう一度、俺が勝って今度こそ、俺が『Ragnarok War』を完全クリアしたっていう栄冠を手に入れやる!!神原……いや、プレイヤーネームGOZ──ゴズ!!この名を覚えておきやがれ、お前に敗北を与える者の名だ!!」


 ──だからこそ、俺の気持ちも分かってくれるよなロキ?俺の勝ち試合を無に返してくれやがったお前は、ゲームの代わりにこの世界で、キッチリと礼を返してやるよ!!


『あっは☆その剥き出しの闘争心……ゾクゾクきちゃう♡♡命を賭けたこの現実ゲームに勝つことが出来たのなら、その時は向こうに帰してあげる。だから、精々、足掻いて私を楽しませてね?ゴズのおにーさん』


 ふっと身体が軽くなった……どうやら、満足して銅像との接続を切ってくれた様だ。

 

「……つい、思いっきり啖呵を切っちまったけど、ゲームの時以上のロキに勝てんの??」


 まぁ、いっか……口から出ちまったもんは仕方ねぇ。

 さーて、先ずはこれから何を──


 これからの事に思考を向けた瞬間、鼓膜が破れるんじゃないかと思うぐらいの甲高い音が玉座のすぐ近くから聞こえ出し、思わず蹲る。

 身動きの取れない俺を他所にその音は、どんどん大きくなりそれに比例するかの様に、空中に六芒星を模った魔法陣が刻まれ、何がなんだか分からんうちに、形成された紫色の禍々しい魔法陣はこれまた爆音で爆ぜる。


「──ホムンクルス、形式番号VA-10。ロキ様のご命令により、御身をアシストするべく派遣されました。よろしくお願い致しますマスター」


「えぇ……」


 パッと見はあのロキとそんなに変わらない……いや、本当に変わんなくね??あ、よく見れば目の色が赤色で統一されるわ。

 それ以外は目元のマークと言い、紫の髪まで何もかも一緒やん……自分と瓜二つの存在を寄こすとかどういう趣味してんだあの女神。

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