Ragnarok Wor
待雪草
第1話 突然の始まり
「まだだ……此処でフェンリルを切って、ジークフリートとトールを足止めすれば……よしよし、突破口は作れた!!」
連休を活かして、いや普段からも平気にやっているが、連日、一切睡眠を取ることもなく床に数え切れないほど転がる獣の爪の様なマークが特徴的なエネドリで常に、覚醒状態を維持しながらパソコンに向き合っている男は、寝不足からくるテンションとはまた違った、いっそ狂気すら感じられる程の熱量を発しながら、画面全てに目を動かし寝不足の頭をフル稼働させ、刻一刻と変化していく『戦場』の変化を捉えていた。
「これでお前を守る者は、俺の進路には居ねぇ……さぁ、ツラを拝ませて貰おうかオーディン!!」
男がプレイしているゲームは、北欧神話を元ネタに作られた『Ragnarok War』と呼ばれるゲームであり、シーズン毎に大規模マップを用いて、二つの陣営に分かれてリアルタイムでPVPを行う戦略シミュレーションで、現在で第四シーズンを迎えているこのゲームだが、過去一度もどちらかの陣営が勝利を迎えることはなく、幾度もリセットという名のラグナロクが起きていた。
そんなゲームで、マゾ向けとされるロキ陣営に所属する彼は、今、敵陣営のトップに対して王手をかけようとしているのだから、その興奮は察するべきところと言えるだろう。
「んぁ!?テメェ、此処でも妨害してくんのか!?」
『困るんだよねぇ……今、勝たれちゃうとさぁ私がつまらないんだよ』
銀色に輝く右目の下に黄色の星、澄んだ青色に輝く左目の下には赤い涙の様な形の化粧をし、全体的にピエロを彷彿とさせる幼女が、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら男の指揮する軍勢の前に現れる。
「ロキぃぃ……テメェが居なきゃもう少し楽に勝てるってのによぉ!」
『だから、さ。此処で負けて、また一緒にラグナロク後からやり直そ??そうして、終わることのない遊戯を楽しもうよ!!おにーさん?』
「永遠に終わることのないクソゲーなんてごめんだね!!俺は今日此処で、勝つと決めてんだよ!!」
マウスを走らせ、幼女──自らが所属する陣営のボスである筈のロキへと攻撃指示を出す男だったが、数秒後その顔は驚愕に染まることとなった。
「……は?たった一撃で俺の育てた軍勢が半壊?しかも、被ダメージ平均、999999!?!?上限突破とかそういう次元じゃねぇぞ!?!?」
プレイヤー側はどう足掻いても、四桁ダメージが限界でありゲーム側で設定されているユニットの最大体力も、同じく四桁である事からも、このロキの攻撃は運営が調整を間違えたとしか言えない領域だであり、この瞬間にもクソゲーが!!っと言ってゲームを辞め、運営に抗議文を送ったとしても誰もこの男に文句は言えないだろう。
だがしかし、男はこの圧倒的、無慈悲に対して口角を上げていた。
「攻撃の瞬間、僅かだけどキャラが右手を上げてたな……それなら、指揮でタイミング良く全体移動をさせれば攻撃を受けずに済む……なら、今のうちに移動速度上昇バフを乗せて……猶予はバフの持続時間三十秒以内か。それまでに打開策を練って、こいつをぶっ倒し、オーディンを血祭りに上げる……ハハっ、燃えてきたぞ!!」
『あれぇ?まーだ、諦めないの?ラグナロクでリセットされちゃうザコの癖に足掻くんだぁぁ?……ふふっ、がーんばれ♪がーんばれ♪』
「このメスガキ神め……良いぜ、やってやるよ!!」
そうして、五時間もの激闘の末、男はロキを撃ち破り……大きく数を減らした自軍では勝てる訳もなく、オーディンに敗北し、男に続く者達も居なかった為、此度の戦いもまたリセットが行われてしまうのだった。
「だー!!クソ!!!!!!……聞いてねぇよ、あそこでロキが乱入してくるなんて……いや、戦争を長引かせるのがロキの目的なんだから、それを読んでない俺の負けか……」
炎の巨人、スルトによって燃えされていくマップの自軍ユニット達を見つめながら、男……
「あー……勝てると思ったのになぁ。今回はフェンリルもヨルムンガンドも最高レベルまで育ててたし、それ以外のユニットもみんな、ネームドクラスにしたのに……あー、無睡で大学に行って速攻帰って、ゲームしてた過去の俺よ、未来の俺はその献身に応えられなかったよ」
一種の燃え尽き症候群に陥った神原が、クマのくっきりと浮かび上がっている目を擦りながら、休憩も程々にシャワーでも浴びて寝ようと椅子から立ち上がった瞬間、ソレは起きた。
風呂に行くために電源を切ったパソコンが、立ち上がり背を向けたと同時に再起動したのだ。
「うおっ!?……え?心霊現象?」
突然の起動音に驚く神原を他所に、いつもの見慣れた背景とは違い、真っ黒な画面を映すモニター。
何事かと思わず見つめていると、真っ黒な画面に目立つ様に白い文字がゆっくりと浮かび上がっていき、やがてそれは一つの文章となる。
『キミ、オモシロイネ、コッチニ、オイデヨ』
「……カタカナってアレだな。見慣れてるけど、こう超常現象の時に出てくるとやべーな」
そんなアホな事を言っていると、モニターは白く輝き始め神原の部屋を外の明るさにも負けない極光に至ると、神原はもはや目を開ける事すら出来ず、咄嗟に顔を腕で隠し──極光が収まる頃には、もう既に部屋に神原の姿はなかった。
『あはは!!ようこそ、雑魚でどーしようもない『GOZ』のおにーさん♪今度は私のリアルで、たのしーく遊ぼ?』
そんな声が誰も居なくなった神原の部屋に響き渡るのだった──そして、件の神原と云うと。
「何じゃこりゃァァァ!!!!!!!!これ、『Ragnarok War』に出てくる指揮官ユニットの姿まんまじゃねぇかぁ!!夢にしてもクオリティ高過ぎんだろ!?」
近くにあった水面に映る黒い人の形をした影の様なフォルムに、目と口に該当する場所に妖しく光る赤色が宿っている姿に大絶叫をあげているのだった。
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