貧乳女神様とリンゴ

バカヤロウ

第1話

「あなたは死にました」


目の前には薄っすら霞のように透けた女性の様な存在が現れる。

ただ、いまいち死んだ実感がない。


……いつ死んだんだ?


「今回はイレギュラーのため選択権が与えられます」


俺の頭が現状に追い付いて行ってない。

何が起こっている?

イレギュラー?

選択権?


あっ!もしかして、バカなの?


「バ、バカとは何ですか!……コホン。あなたの思考は筒抜けなのです。お気を付けください」


あれ、考えていることが伝わっている?

乳の谷間をガン見しているのがばれている?


「ええ、バレバレです。そうでなくても視線が気持ち悪いです」


そうか、意志が筒抜けなら俺の意見を聞く必要なくない?


「口に出して言ってください。それが契約の条件でもあります」


ふむ、何となくわかってきたぞ。

これは異世界転生とかいう小説で良くある出来事だな。


「ええ、その通りです。流石、私が目を付けた魂。理解が早くて助かります」


あ、今、太ももが見えた。


ちぇ、なんで、直ぐに裾を整えるんだよ……


「そういう雑念は今は結構です」


いやぁ、思考したことがバレルというのは何ともし難いものがある。


「そうですね、ですから早く契約を行いましょう」


何だろう……契約を急かさせるって悪徳商法に引っかかっている気分だよ。

目の前にいるのは女神か天使かのどちらかなんだろうけど……もしかして、淫魔……


「違います!」


おっと、そこまで強く否定するということは似たような存在?


「断じて違います!!!!!」


他人の目の前に現れることが出来るぐらいだからもしかしてと思ったが違うようだ。


「もう、埒が明かないので選択肢を与えます。一つは元の世界に戻って赤子からやり直す。もう一つは魔法が存在する異世界で赤子になってやり直す。このどちらかです」


うん、決まってるよ。魔法なんて憧れるよね。


「どうやら心に決めているようですね。では、言質を取ります。あなたはどちらを選びますか?」

「勿論、元の世界へ返してください」

「分かりました。魔法の使い方などは……え?今、なんて?」

「だから元の世界がいいから元の世界に返して」

「あなた魔法に憧れているのでは?」

「憧れてはいるがどうせ中世ヨーロッパ、貴族制度なんてクソみたいな制度がある国とかしかないんだろ?それに、何をするにしても人力とかになりそうだし。俺は文明の利器から離れて生きるのは嫌だ」

「……わかりました。既に言質は取りましたので契約完了です」


あ、この様子は納得していないな。


「ええ、納得していません。折角、見つけた手ごろな……コホン」


手ごろ?うん、まあ、聞かなかったことにしよう。


「よろしい、では不本意ですがこれからは私があなたの伴侶として付き添いを行います」


え?なんで?


「あなたの転生特典として私が伴侶になるのです。元の世界に戻っても私が伴侶になるような人生をあなたは選択します。まあ、別の特典もあります。ただ、別の特典としてもスキルLv.1がランダムで手に入る程度……私を選ぶしか選択肢が」


「スキルを下さい」


「え、待って何でスキルなの?しかも、声に出して言うなんて」


顔が見えない女神なんて嫁に来てもらってもな……


「そ、そんなこというなら、見せてあげましょう。顕現して差し上げましょう。その眼で姿を捉えればたちまちあなたは惚れてしまうでしょう」


目の前に見えていた霞の形が次第に整っていく。

そして、目の前に現れたのは高校生ぐらいの女性だった。

背は高くウェーブの掛かったボリュームのある茶髪は女神が地面に着地すると同時にふわっと羽のように舞い踊る。

流石の俺もツイツイ見とれてしまう。


「どうですか?あなた好みの女でしょ?」


すごいこんな峰〇二子のようなボンキュッボンは初めて見た。

絶対に今後、お目にかかることはないだろう!


……あれ?


なんか落ちたぞ……。


あーパットだったか。


うーむ残念。


「スキルでお願いします」


「………………ッ」


貧乳女神はその後、何一つ言葉を発することはなく、一粒の涙を流しただけだった……。




「では、スキル特典を配布しますのでこちらへ」


また、新しい女性が現れた。今度は霞のような存在ではなく、しっかりとした20代前半の北欧美女の姿だ。


「私は天使です。これより祭壇に向かいますので付いてきてください」


俺はまた、この子も思考が読めるのだろうと思って何も言わなかった。


「あの、わたしの言葉聞いていますか?」

「ああ、別に言葉にする必要はないのだろう?」

「いえ、私は女神様のような力はないのであなたの思考を読むことなんて出来ませんよ」

「そうなのか、わかったよ」

「はい、では出発しますね」


そういって彼女は俺の手を握る。

小さくひんやりとした冷たい手だった。


「着きました」

「え?」

「ここが祭壇です」

「…………」


祭壇というよりも俺達の目の前にあるのはアメリカなどで死刑に使う電気椅子だと思うのだが……


「では、ここに座ってください。直ぐに終わりますよ」

「なんか怖いんだけど」

「大丈夫です。本当にすぐに終わります。まずは心を無にしてください」

「え?どうやるの?」

「雑念を捨て何も考えていない状態になってください」

「難しいな……」


俺はその後数時間に渡って心を無にすることを心掛けたが出来なかった。


「うーん、心を無にすることが出来れば直ぐ終わるんですが、どうしましょうか」

「なあ、寝たら何も考えなくなるんじゃない?」

「あ、無理です。あなた今、魂だけなので寝る必要はないですし、寝ることなんて出来ませんよ」

「……マジか」


その後も頑張った。

しかし、俺は心を無にするのに100年掛かった。


「お疲れ様です。これで完了しました」

「やっと終わった……」

「ここまで雑念まみれの魂は初めてです。カスのような魂ですね」


流石にここまで付き合わされた腹いせに毒を吐く天使……


「では、女神様のところへ戻って転生しましょう」

「わかった」


また、天使と手をつなぐ心なしか最初に握った手よりも温かく感じた。


「ただいま戻りました」


俺と天使は一瞬にして貧乳女神のいる場所まで戻ってくる。俺達が帰ってくると貧乳女神は慌てて何かを隠していた。


「女神様、彼に転生をお願い致します」

「う、う、うん。いいわよ。ではこちらへ」


俺は貧乳女神様の目の前に立つ。

だが、目の前の女神は明らかに谷間が出来ていた。

うん、俺にふられたから新しい男を探すために盛っているのか?


「違うわ……まあ、いい。ではそなたに命を与える」


貧乳女神の両腕で俺は優しく包み込まれる。

本来なら身長差があるのだが彼女が少しばかり浮き上がっているせいで俺の顔の位置と彼女の胸の位置が同じになる。

そして、とても良い匂いがした。

それと同時に理解してしまう。

どうやら胸の谷間にリンゴが挟まっているのだ。


このリンゴを挟みたいためにパットで盛っているのか……苦労してんだな……


「うるさいわね、静かにしてよ」

「何も喋ってないよ」

「あなたの雑念がうるさいのよ」


イラッとした。

なんだよ、こんなリンゴなんて食べてやる。


「いや、やめて、食べちゃダメぇぇぇぇぇぇ」


その直後、俺は真っ白な光に包み込まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貧乳女神様とリンゴ バカヤロウ @Greenonion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ