第2話
納品先のすぎの子保育園とは長い付き合いだ。園長先生ともすっかり顔馴染みになっていた。
パンが入った段ボールを全部体育館に運び入れてから、公民館の窓口に申込みまだ大丈夫ですか?と声を掛けた。
「あと二人大丈夫ですよ」
「良かった。間に合った」
ほっとして胸を撫で下ろした。申込書をもらい椅子に座り書いていると、大勢の保育園児が両親とともに次から次にやって来た。駄々を捏ねて泣いている子からニコニコ笑顔の子。いろんな子がいた。一華も昔あんな頃があったんだよな。懐かしさに目を細めながら緊急連絡用の携帯番号を書こうとして自分の番号を度忘れしスマホを取り出し確認していたら、
「ねぇ、康介さん。たくみに靴を履かせて」
「分かった。ちょっと待ってて。荷物を下に下ろすから」
聞き覚えのある声にどきっとした。
そんなはずない。ここに彼がいるはずない。
でも毎日聞いている声だから間違うはずない。怖かったけど、おそるおそる顔を上げて男性を見た。間違いであってほしい。何度心の中で繰り返したことか。
リュックサックを背負いレジャーシートが入った大きめのバックとカメラを抱えた男性は夫の康介に間違いなかった。女性は二十歳前半。全然知らない初めて見る女性だった。
康介は私がいることにまったく気付いていなかった。それもそうだ。白衣にマスクと白い帽子。一見すると誰だか分からないもの。
「たくみくんおはようございます。運動会に来れて良かったね。ずっとお休みしていたから先生もお友達もみんな心配していたのよ」
担任らしき女性が声を掛けると、
「あのねあゆみせんせい、たくみくんね、おにいちゃんになるんだよ」
「やだ、もう。まだ内緒にしててって頼んだのに」
おにいちゃんになる?ということは女性は妊娠している。康介の子どもを?
頭の中が真っ白になってしまいそれからの記憶が曖昧でよくは覚えていない。軽自動車に乗るなり涙が次から次にあふれて止まらなかった。
康介は仕事だと嘘をついて娘を一人家に残し行政センターにいた。知らない子どもの運動会に普通は参加しない。ということはあの女性とはそれだけ親密な仲、ということになる。
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