最悪の一日

彩矢

第1話

結婚前に働いていた職場で知り合った同い年の箭内やない康介こうすけと結婚して十二年。娘の一華いちかは十一歳、先月の四月から小学六年生になった。

「まゆさんごめんね。土曜日なのに出勤してもらって」

「私だって娘が熱を出した、怪我をした、学校行事でしょっちゅう休んでいるんですからお互い様です。気にしないで下さい」

近所のパン屋さんでパートとして働きはじめて六年目。今日、保育園の運動会があり会場となっている行政センターの施設に併設されている体育館にクリームパンを納品することになっていた。

軽自動車にパンを積んでいたら携帯が鳴った。画面を見ると自宅からだった。夫婦共働きだけど経済的な理由から一華に携帯はまだ持たせていない。

ーママ、ごめんねー

「どうした何かあった?」

ーうん、あのね、今日の九時から公民館で先着順でわんぱくキッズの申し込みがあるの。あゆちゃんやまきちゃんも参加するんだってー

一週間前に娘が小学校から持って帰ってきた緑色のチラシのことを思い出した。

「お父さん休みだからいるでしょう?母さん仕事で行けないから代わりに申し込んで来てって頼んでおいたよ」

ーそれがね、さっき電話が掛かってきて急に仕事になったって慌てて出掛けて行ったー

「不審者情報があるから鍵をしっかり掛けて、誰か来ても絶対に玄関のドアを開けちゃ駄目だよ。いい分かった?お昼には上がらせてもらえるよう頼んでみるから」

ーうん、分かったー

公民館は行政センターと同じ建物内にある。

夫の康介は仕事が忙しいみたいで二か月前から土曜日も出勤するようになった。会社が二期連続で赤字を出して派遣も全て切ったから残業と休日出勤が多くなると思うんだ。康介の説明に変だとは思わなかった。疑いもしなかった。

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