第6話 奥様ポイントカード
それは、奥様が旦那様に対して付与するポイントとそのカードである。(目には見えない)
先日、子どものNが、一年に一、二度教えていただいているピアニストの先生から、ご結婚なさったというお話を伺った。とてもおめでたい知らせに、Nと一緒に驚喜してしまい、レッスン前に申し訳なかったのですが、そのときふと、私の頭に「奥様ポイントのお知らせ」が現れた。久しぶりなことである。普段は、透明で意識しない存在の奥様ポイントカード。
その先生は、二年前にご結婚されたそうで、お子様もいらっしゃるという。七か月で、つかまり立ちをしているというお話を伺っただけで、もう本当に可愛らしく、ここでも歓喜してしまい、申し訳ありません。と、思いつつ、同時に頭に浮かんだのは、奥様のたいへんさだった。
余計なお世話だが、果たして、先生はどのくらい奥様をお手伝いされているのだろうか。ちなみに、先生は職業柄、国内外を演奏でご移動される日々である。私は、今はまだ自覚されてはいないであろう、透明な奥様ポイントについて、かくかくしかじかご説明して差し上げたくなった。もちろん老婆心に過ぎないので、実際に説明はしませんでしたが。
奥様ポイントカードが自覚されだすのは、人それぞれの時期があると思うが、多くは中年期になってからではないだろうか。
それまで奥様たちは、無意識の中で、頭の中のポイントカードに判を押したり、シールを貼ったり、今はデジタル化なので加算したり、人それぞれの作成方式で、ちゃくちゃくと旦那様を評価し、ポイントを付与し続けている気がする。
もちろん、ポイントカードという形式になさらない奥様もいらっしゃるだろう。たとえば、通信簿であったり、評価表であったり、お小言日記であったり、様々な形になるのでは、と思う。しかし、旦那様諸君は気をつけるに越したことはない。確かに、それは、現存するのだから。自覚のないままの、若い奥様の中にも。
若い頃は、不思議なフィルターが掛かっていて、奥様本人にもポイント意識は非常に低い。けれど、一度現実に気づいてしまったが最後、何かあるとポイントカードがむくむくと頭の中にせり上がり、拡大され、私の場合だとそこに、割合小さめの赤いスタンプが押されたり削除されたりを繰り返す。
そうです。ポイントは、使うと、もちろんマイナスになるんですね。
ポイントがどんなときに使われるかというと、旦那様に不適切発言があったり、夜中に大きな音でレコードを掛けて家族の安眠を妨害したり、常に自分のことしか考えていなかったり、そんな諸々の積み重ねで、ポイントはいつの間にかマイナスになったりもします。
怖いですね。
ちなみに、旦那様ポイントというのがあった場合、私が怖いかというと、それはまったく怖くありません。いくらマイナスにしてくれても構いませんよ~。という感じである。なぜか、というと、旦那様ポイントは、その特性としてごくほんの最近意識し出したに違いないからである。奥様ポイントには、長年の積み重ね、というものがあります。なんなら、結婚前から。だから、そんな最近発生したポイントなどという吹けば飛ぶようなものに興味もない。鼻で笑っちゃうくらいです。
奥様たちは、長い間、黙って旦那様を観察してきました。
結婚し、自分が具合の悪いとき、夫にどのような対応をされたか、子どもが産まれたいへんなとき、どのように行動されたか言われたか、長い時間の積み重ねというものは、あっという間に感じられながらも、本当に濃密なものです。
旦那様ポイントがあったとしても、この積み重ねと濃密さが奥様ポイントに及ぶわけもなく、だからそれはまったく怖くないポイントなわけです。例えマイナスポイントカードだったとしてもね。
さて、ここで、もうお一方、私が可愛がってきた女性が近々ご出産のご予定となっています。
本当に楽しみで、赤ちゃんの顔を見に行けたらな、とかお祝いは何がいいかな、などと今朝も楽しく想像してしまいました。が、ここで気になるのは、やはり奥様ポイントの存在です。
奥様ポイントが極端にマイナスになってしまった場合、それは離婚の危機に直結します。彼女の中に透明な奥様ポイントの芽生えがあったとしても、一生透明なままで気づかなければいいな、と思ったりします。
その反対に、前述の先生へポイントカードの存在を教えてあげたくなるのは、私が
考える男女差という偏見かもしれません。
けれど、ポイントカードが保持されていることを、のほほんとした旦那様は全く気づかず、ある日突然自分が不利になった場合、後悔するかも知れず、そうしたことがないように教えてあげたくなるわけですね。でも、よほど親しくないと教えないけれど。
私が持っている奥様ポイントカード(H氏の)ですが、なんと、ポイントはプラスを保っています。
えっ?!エージェント「サウナ石」H氏でもですか?!というお声が上がりそうですが、これにはからくりがあって、私の義母という方が本当に優しくていい方で、その義母のポイントが莫大に高すぎたわけですね。つまり、義母ポイントが、旦那様ポイントを親子特典で支えているという状況なわけです。義母ポイントは、永久不滅ですね。夫には自分の母に超特大に感謝して欲しいと思います。
こんな奥様ポイントカード、旦那様はその存在に怯えた方がいいと思います。
ところが先日、Nが言うではありませんか。
「僕には、Mさん(義母)ポイントとかないから、たいへんだな~」
「え、どういうこと?」
「Nには、ママポイントが加算されないっていうことだよ!」
なーるほど。それはお気の毒。H氏ポイントは期待できないし、Nが可哀想に思えてきたが、要は、N自身がしっかりしていればいいだけのこと!H氏を見て、日々学んで欲しいこの頃である。ポイントカードを保持するのか、できるのか、しないのか、それは分からないけれど。
アラ還反抗期 @kotume85
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アラ還反抗期の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
駄犬クロニクル/QB マダオ
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 23話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます