第25話 第二十条 警備業者は、常に、その行う警備業務について、依頼者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない

 この世は大警備員時代である。これは警備員だからとは限らない話だが、よく昔から「酒は飲んでも呑まれるな」と言われる。だが、これが警備員になると話しは変わって来る。元々、欲望の赴くままに行動するのが多い猛者達が集まった業界である以上、「酒が呑みたくなったら直ぐさま呑む」者もいるのだ。それが仕事中であってもお構い無しと言うのは言わなくても伝わる事だろう。



「うーん……電源はどこだ?」


 俺が持って帰って来た白物家電二つ共、電源プラグが付いていなかった。その代わりと言っちゃなんだが、冷蔵庫と電子レンジの本体から小さな箱のようなモノが生えていた。



「トリィ様、その箱は何をする物なのですか?」


「こっちの大きいのが冷蔵庫って言って、中に入れたモノを冷やす機械。こっちのが電子レンジと言って、中に入れたモノを温める機械だ。でも、動かなくて困ってる……」


「キカイ?」


「そう、機械。色々な部品を組み合わせて作るモノで……」


「それはカラクリだな。オマエはたまに不思議な言葉を使うよな?」


 カラクリと機械って同じなのか?まぁ、構造は似たようなモノなのかもしれないが……。カラクリなんて言葉を現代日本で使う機会なんてそれこそ無いからなぁ……。



「ルビアラ……もしかしたらこれはカラクリじゃなくて、魔道具かも知れませんよ?専用装備として現れたのなら魔力を供給すれば動くのではないでしょうか?」


「魔力?俺にもあるのか?」


 また出たよ、魔力……。日本で使ったコトがない力なんて、俺には使える気がしないんだが、どうせこの世界で生まれた人達は生まれながらにして使えるとか言ったりするんだろ?

 でもそうしたら、俺の専用装備はただのガラクタってコトになる。ここまで重たい思いをして持って来たのに、ガラクタだったんなら、それこそクーリングオフしたくなるよ……。



「大抵の人は魔力を持っています。人間族であっても魔力を持たないなんて事は聞いた事はありませんから、トリィ様も普通に扱えるのではありませんか?」


 思った通りの解答が来た。ルビアラはよく分からないが、タリアは俺がこの世界の出身じゃないコトを知らないのだろう。それだったら当然の解答なんだが、その話しをしておくべきだとは思ってるがなかなかきっかけに恵まれていないのも事実だ。



「いや……多分俺は魔力を使えない。だからこの専用装備に魔力が必要なら、これはただのガラクタだ」


「えっ?!本当に?魔力が使えないなんて……」


 なんかタリアがガッカリしてる気がする。まぁ、事実だから変えようが無いし、わざわざ嘘を吐く必要も無いよ……な?



「取り敢えずこの箱が使えるかどうかは知らんが、中に詰め込んで見れば、勝手に動き出すんじゃないのか?」


 ルビアラはそう言うと、冷蔵庫の扉を開け、缶をポイポイと放り込んで行った。だが動く気配は微塵も無い。当然と言えば当然なんだが……。



ヴヴヴ……


「あ……れ?動いた?なんでだ?」


「アタイの言った通り、勝手に動き出すカラクリなんじゃないか?それに魔道具なら、オマエには勿体無いくらいのシロモノだッ!そんなのはアタイが認めないッ!」


シュゥン


「あれ?今度は止まった……なんでだ?」


 直ぐに止まった冷蔵庫。俺には意味が分からない。ルビアラが認めようが認めなかろうが、冷蔵庫がルビアラの機嫌取りをするワケはないし、謎は深まるばかりだった。



「ねぇ、ルビアラ?この中にもその“缶”を入れたのですか?」


「ん?そう言えば入れた……が、失くなっているな?」


 本体から生えている小さな箱……俺は二人のやり取りでなんとなく謎が解けた気がした。

 要するに、魔力をこの小さな箱に入れれば動くってコトなんじゃないか?モノは試しだ!いざ投入ッ!



ヴヴヴ……

「やっぱりか!」


シュゥン


「トリィ様、何か分かったのですね?」


「あぁ。この箱の中に“魔力”を入れれば動く仕組みらしい」


「えっ?その“缶”に魔力が?」


「前にサフィアスが言っていたんだ。この“缶”の中身、ビールに微量の魔力が入ってるって」


 一種の賭けだった。だが、動かし方は分かったが、250ml缶では保って数秒。これじゃ、中身が冷えるコトはないだろうし、電子レンジも同じ方法で使えるとしても、何も温まらないだろう。

 やっぱりガラクタと言うコトか……。



「ふぅん?それなら、アタイがやってみよう」


「えっ?ルビアラ?」


 ルビアラが「やってみよう」と言った後、小さな箱を握り何やらボソボソと言っていたワケだが、そうしたらあら不思議。冷蔵庫は動き出した。



「これを使うのに、持ち主の魔力でなくても平気なら、アタイの魔力でもなんとかなると思ったんだが、なんとかなったようだな?」


ヴヴヴ……


「確かにそうですねッ!その“缶”から魔力を取り出しているのだとすれば、トリィ様の魔力でなくても使えるコトになりますものね」


 こうして冷蔵庫は普通に稼働を始めた。少なくとも“缶”よりは長いコト動いている。これでキンキンに冷えたビールが呑めると思うと俺の心ははやって行くような錯覚を覚えていた。

 いや、飽くまでも錯覚だ。だって、ここ事務所だから。仕事中に酒を呑むワケにも行かないし、ここで宴会をしたくもない。

 もしもここで宴会を開いたとして、呑んだら凶暴になるルビアラや、色々上戸いろいろじょうごが判明したエメリルダなどと、一緒に呑みたいとは思えない。

 それにまだエメリルダは起きる気配もないしな……。要するに呑んだ結果、介抱するのが自動的に俺になるのは勘弁してもらいたい。


 それにタリアの年齢はまだ二十歳に達していないようだし、ラピシリアは見た目が子供過ぎて、酒を呑ませたら犯罪臭しかしない。

 そう言えば、この世界で酒を呑めるのはやっぱり二十歳からなのか?



 そんなコトを大真面目に考えながらも、俺は一つアイデアが浮かんだ。どうせならいっそのコト、この事務所でビアホールをやるってのはアリなんじゃなかろうか?ってコトだ。ここならビールをキンキンに出来るし、それなら冷蔵庫も有用に活用出来るだろう。まぁ、150L規模の冷蔵庫なんで、たくさん客が来たら直ぐにビール切れになるだろうが……。


 だが、サフィアスにそんなコトを言えば、また「新たな産業が〜」みたいな話しになるだろうし、そもそも警備業を興す話しはどうなったかと言えば、まだ装備の試作品すら確認し終えてないんだよ……。


 次から次へと色々なコトがと起きるモンだから、本業を始めるコトすらままならない。だけれども、遅々として進んでいない気もするが、俺は一歩一歩先に進んで行ってると信じてる。

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