第24話 第十九条 警備業者は、警備業務の依頼者と警備業務を行う契約を締結しようとするときは、当該契約を締結するまでに(中略)当該契約の概要について記載した書面をその者に交付しなければならない

 この世は大警備員時代である。ここから先は個人的な感想である為、異論はあるだろうが、敢えて言わせてもらうとする。警備員という職に就く者は総じてどこかしら金に対して者が多いように見受けられる。酒にタバコ、ギャンブルに風俗……そう言った俗世の欲望に抗えない者達が行き着く終着点なのかも知れない。



「なぁ……なんだソレは?」


 ルビアラは不思議そうな顔で俺……じゃなくて出て来た箱を見詰めている。少なくとも俺にはその“箱”が理解出来ている。



「これは……電子レンジだな」


「デンシレンジ?何語だ?そもそもなんだ?何をする物なんだ?それでモンスターが倒せるのか?」


 何語だ……日本語だ。ちなみに今話している言語も日本語だ。だが、それを言ったところで「ニホンってなんだ?」ってなるだろうから言わない。

 そもそもなんだ……白物家電と呼ばれる家電だ。だが、それを言ったところで「カデンってなんだ?」ってなるだろうから言わない。

 何をする物なんだ……俺にも原理はよく分からない。電磁波をビビビと送って物質の水分を振動させて温める便利な家電……と言ったところで「何故何故攻撃」に晒されるだろうから言わない。

 モンスターが倒せるのか……それは俺が知りたい。なんでこんなのが専用装備なのか俺が一番知りたいから何も答えない。


 だが、一つ救われたのは電子レンジだったコトだ。そこまで重たい家電じゃないから、冷蔵庫を背負ってる現状でも俺の負担はあまり変わっていない。



「オマエ何か言えよッ!」


「あ……そうだな。うん、今日はもうここいらで戻らないか?これ以上荷物が増えたら大変なコトになりそうだ」


 ルビアラは機嫌に拠って俺に対して走馬灯を呼び起こさせる殺気を放って来る。だからこそそんな時は当たり障りの無いコトを言うしか選択肢は無いが、そもそもルビアラの質問に対して俺が答えたところで、深堀ふかぼりされたら俺は困るコトが多い。

 要するに俺は、どうすればいいんだ?ルビアラ対応策のマニュアルでも真面目に考えたくなる……ってのが正直な解答だった。



「オマエは軟弱者だ。だがまぁいい。オマエの専用装備はよく分からんが、捨て置かず持って帰ると言う事は使い道があると言う事だよな?それならこのまま進んで更に荷物が増えるよりは、一旦置きに帰った方がいい事もあるだろう」


 正直な話しをしよう。俺はルビアラがバカだと思っていた。だが、俺が得た専用装備からルビアラはルビアラなりの解答を見付けた様子とも言い換えられる。それは即ち、バカと呼ぶには程遠い“洞察力”を持っているってコトだ。

 専用装備が本人にしか持ち歩けないなら、更に下階層に進みこれ以上の荷物家電が増える可能性を考えた結果、俺が持って帰れないってコトを洞察した結果になる。



「ルビアラ、助かる。十五階層を目指すなら一度事務所に戻ってこれらを置いた後で向かいたいってのは俺も考えてた」


「まぁ、オマエの専用装備がそんなのばっかなら、それが妥当なんだろうな。それにオマエは力も無いから、これから先の事も考えてもう少し筋力を付けておけよ?」


 おっさんな俺に対して酷なコトを言ってると思わないんだろうか?まぁ、ルビアラは俺のコトを思って言ってくれてるんだろうから、余計なコトを言えばカドが立つ。それに第一、ルビアラは俺よりも歳上だしな。

 これから真面目に筋トレでもしようかな……とは思ったりしないワケじゃない。筋肉は嘘を吐かないって誰かが言ってたしな……。




「ぷはぁッ!お嬢、コレ旨いでっせ!最初は開け方分からへんかってんけど、変な輪っかに指引っ掛けてクイってやれば、開く仕組みはなかなか理に適ってはるし、中身も旨い!苦味が強いのが難点やけど、それを補ってお釣りが来るこのシュワシュワ感は病みつきになりまっせ!」


「エメリルダ……勝手に呑んで怒られても知りませんよ?」


「大丈夫やろ?こんなにあるねんで?少〜し減ったくらいで目くじら立てる程、トリィのあんさんの心は狭く無いと思っとりますねん!」


「でも……コレは一体何なのかしら?モンスターの力の結晶のように見えるけど、中身は飲み物だなんて……」


プシュッ

「ゴクッゴクッゴクッ。ぶはぁッ!ほれほれお嬢〜、お嬢も一本やっといてもバチ当たらんでぇ」


「酒臭ッ。えっ?コレってまさか……お酒?」


プシュッ

「ゴクッゴクッゴクッ。ぷはぁッ!う〜ん、滲みるわぁ。何も疲れてへんけど、疲れた身体に滲み渡るわぁ〜。お嬢、ええんでっか?人生、何事も経験が大事やで?ウチが大事なお嬢のハジメテの人になったるさかいに、その乳揉ませてや!ぐへへッ」


「ちょっ、エメリルダ呑み過ぎですよ!(エメリルダってお酒弱い上に絡み上戸じょうごだったなんて……)エメリルダ!酒臭いし調子に乗ってわたくしの胸を揉むのは止めなさい!もうッ!ちょっと離れてッ!」


プシュッ

「ゴクゴクゴクッ。ぷはぁッ!お嬢〜そうケチケチしたコト言ってはると、ウチ……泣いてまうよ?えぇんかぁ?しくしく……お嬢がいぢめた〜言うて、サフィアスのあんさんや、トリィのあんさんにタレ込んでまうで?しくしく……チラっ」


「なんなのコレ……(今度は泣き上戸?)悪酔いが過ぎますよ、エメリルダ。コレ以上の暴挙はわたくし、許しませんよ?」


プシュッ

「ゴクゴクゴクッ。ぷはぁッ!なんやてぇ?やんのかおらー。やったるでおらー。お嬢が暴虐出す言うんなら、相手になってやるさかい、表出ろやおらー」


ぼこッ

「きゅ〜」


「エメリルダ、アタイが拾って来たモノを勝手に呑みやがって!数が減って、サフィアス閣下から怒られたらどうするんだッ!ん?それはご褒美だッ!よし、呑めッ!もっと呑めッ!ほらアタイの酒が呑めないってのか、あぁん?」


「ルビア……ラ?貴女、今まで一体どこに?その前に、エメリルダはるから呑めないと思いますが……」


「あ……れ、タリアさん?おはようございます」


 この状況ってなんなんだろうな?迷宮ダンジョンから戻って早々、部屋の中からが聞こえて、ルビアラが真っ先に出て行ったのは見えた。

 そして今は、目を回しているエメリルダの口にプルタブの開いてない缶を突っ込み、それを必死に止めようとしているタリアの姿が見える。


 正直なところ、タリアとエメリルダの二人がいると思ってなかったってのはあるが、この状況はカオス過ぎるだろ……。



「あっ……。トリィ様……その……おはようございます。もう……おケガは……いえ、その……わたくしがトリィ様にケガをさせてしまい……大変申し訳ありまごにょごにょ……」


 なんか照れながらごにょごにょ言ってるタリアが凄く可愛く思えたワケだが、そんなコトを思っても俺は口にしない。しかし、タリアが恥ずかしがっている姿は俺からしたら眩しくて直視出来なかったから、逆に俺も恥ずかしくなってしまい、二人して下を向いていた。

 その横では酔っ払っていないルビアラが酔っ払いのエメリルダに絡んでいたが、俺達の視界からは完全に除外されていた……と思う。

 これが盲目になるってコトなのかな?

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