第22話 第十七条 (前略)警備業務を行うに当たつて携帯する護身用具については、公安委員会は、公共の安全を維持するため必要があると認めるときは(中略)その携帯を禁止し、又は制限することができる

 この世は大警備員時代である。警備員が行う事が出来るのは警察官が行う事の出来るであり、警察官とは違い権限は何も無い。飽くまでも類似行為である為、警察官が行う法的拘束力を持った「交通整理」と違い、警備員が行えるのは法的拘束力が無い「交通誘導」となる。だが、一般人からすると混乱しがちとも言える。



ふぁさッ


「やめろ、ルビアラ。ちゃんと服を着ろッ!」


「けっ、ツマらん!アタイに触れようモンならその細首をねじ切ってやったのに」


 バスタオルが落ちた瞬間、俺は目を閉じて顔を背け、見ないようにした。

 その後……ルビアラは本当に詰まらなそうにボソっと呟いたワケだが、俺はそこで漸く目を開けルビアラの方を見るコトにしたってワケだ。ってかさ……本当に殺される一歩手前だったのかと思うと、俺の脚は今にもガクガクと震え出しそうだった。


 結局ルビアラは何も着ていないワケでは無かった……つまりそう言うコトだ。だからこそ、深くツッコミを入れればそれこそルビアラの逆鱗に触れ兼ねないと判断した俺は、この件には触れずに話しを逸らして行く。



「この缶を集めたのは、サフィアスの命令か?」


「サフィアス閣下がアタイに言ったんだ。この迷宮ダンジョンに潜ってモンスターの力の結晶を集めておけって。それで今回の事は不問にして下さるそうだ」


 山のように積まれた“缶”を見ながら俺は、サフィアスの本気度を垣間見た気がした。しかし……だ。違和感を感じる。缶の形はそれこそ円柱状の定形だが、サイズが違うのが見受けられたからかも知れない。

 俺があの時迷宮ダンジョンで見た缶はショート缶(250ml)だけだったが、積まれている中には350ml缶や500ml缶もあるようだ。



「なぁ、ルビアラ。このサイズが大きい缶はどこで拾ったんだ?」


「それは、ボスが落としたヤツだな」


「ボス?!なんだそれ?迷宮ダンジョンにはそんなのが出るのか?」


 ボスって言われて俺は缶コーヒーが真っ先に浮かんだ……なんてコトは無いが、少なくとも俺が知らないコトが多過ぎる感は拭えない。



迷宮ダンジョンは五階層毎にボスがいる。そのボスを倒すと、専用装備が手に入る。それくらいは常識だろ?」


「そうなるとルビアラは、何階層まで行った時にコレを手に入れたんだ?」


「いつものより一回り大きいのは二十階層で、一番大きいのは二十五階層あたりだったか?」


 正直な話しをしよう。俺は驚いていた。俺が見たのは一階層のみ。ルビアラの話しを信じれば、それから更に地下に階層が広がっているコトになるワケだろ?あの扉の先が、本当にこの世界と同じなら、それだけ広大な空間がこの家の地下にあるコトになる。



「その階層まで行くと実際に、中にいるあの骸骨は強いのか?」


「骸骨?あぁ、スケルトンモドキか。流石に二十五階層を超えた辺りで強くなったな。だからアタイは二十八階層で断念したんだ。先ず、ヤツらの速さが上がる。持ってる武器エモノが変わる。骨の耐久力が増える。そして、複数体で必ず現れる」


「そうなのか?ルビアラが強いと感じるんなら、俺には到底無理な話し……か」


「いや、オマエ一人じゃ無理だろうが、アタイがいればオマエが何もしなくても十五階層くらいまでは余裕じゃないか?どうせならこれから行くか?」


 なんでルビアラはこうも簡単に言ってくれるんだ?「ちょっとそこのコンビニ行って来る」みたいなノリで、死ぬ危険性がある場所に行くコトが出来るんだ?

 平和ボケした日本人な俺からしたらまったくもって理解出来ない。



「いや……どうせなら剣の一本。盾の一枚でもあった方がいいか?よし、分かった!今からアタイが!オマエはちょっとそこで待ってろ!」


 ルビアラは勝手に納得し、そして事務所から出て行った。いや、ルビアラ……オマエ、裸じゃあなかったが、下着姿みたいな感じだったよな?それで街中を歩くって、ただの露出魔だぞ?

 俺がそんなコトを言う前にルビアラは俺の目の前からいなくなっていたし、喩えルビアラがいたとしても俺はそんなコトを言わなかったかも知れない。簡単に言うと、ルビアラはが、スタイルだけは抜群だからだ。

 アイツと関わら触れ合わず、あの人間性凶暴性個の詳細年齢を知らなければ、グラビアモデル顔負けのスタイルだけが目に映る。それが下着姿でいるなら、当然目の保養と言えば目の保養だ。俺もおっさんである前に健全な男子なんでな……。

 まぁ、通報だけはされないコトを願っているが……。




バんッ

「王女殿下ッ!朝でっせ!おはようさんのお時間やッ!」


「あら?エメリルダ、おはよう。早いわね?」


「えっ?!あれ?王女殿下どないしたん?自らこんな早起きするなんて、今日は天変地異でも起こすつもりでっか?」


ぴきッ

「エメリルダ……わたくしだって早起きくらいします。その言い方だと、わたくしがいつも誰かに起こされてるみたいな言い方ではないですか?」


「違うんでっか?」


ぴきぴきッ

「ま……まぁ、いいわ。今日からトリィ様が復帰なさるのよね?」


「(おや?いつもならこの時点で二回くらいは本性を見せてくれはるのに、なんかツマらんわぁ)そやね。トリィのあんさんは今日から事務所行く言うてたし、王女殿下が自信満々にアソコを曝け出してたのも、覚えてない言うてたさかいに、安心してカチコミ出来るんとちゃいますか?」


「え……エメリルダ……わたくしはそのように下品で言動はしませんし、恥ずかしいところを人前で見せびらかすほど、破廉恥はれんちな女ではありませんわよ?おほほほほ」


「(なんか怪しいわぁ……まぁでも、これならコレで揶揄からか甲斐かいがありそうやから、ウチは楽しませてもらいまひょ)それじゃ王女殿下、そろそろ行きますさかいに宜しいか?」


「えぇ、モチのロンです」




バんッ

「剣と盾を持って来てやったぞッ!」


 ルビアラが事務所から出て行ってから一時間は経ってないと思う。ルビアラはどこからか一振りの剣と一枚の盾を持って来た様子だ。剣はサフィアスが使っていた大振りな剣ではなく細身の剣。盾は見た感じ木製っポイが分厚く、盾の周りが鈍く光っていた。もしかしたら盾は木の板を何枚か貼り合わせて厚みを出し、金具で留めているのかも知れない。


 朝が早いから買って来たとは思っていない。盗んで来たとは思わないが、借りて来たとしても持ち主に許可は貰っているかは怪しい。



「ほれ、持ってみろ。駄目だったら返品して来てやる」


ずしっ

「多少重たいが、振れないワケじゃない。ところで、コレ……どっから持って来たんだ?」


「それは騎士団から拝借して来た。どうせだ。気にするな。装備も眠ってるよりは、誰かが使ってくれた方が喜ぶってモンだッ!」


 俺としては二個、ツッコミ処を見付けてしまった。ルビアラはもう騎士じゃない。それなのに勝手に騎士団から持って来て良かったのか?と言う点が一つ目。次に、必ず誰かしらがいる騎士団にそのカッコで行ったのか?と言う点だ。


 後でサフィアスに怒られなきゃいいけど……俺はそんなコトを考えながら少しでも手に馴染むように、初めて触った本物の凶器を空振りしていた。

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