第18話 第十三条 警備業者は、自己の名義をもつて、他人に警備業を営ませてはならない

 この世は大警備員時代である。例えば警備員には“警備力”と言うモノがあるとする。無経験新任研修明けのド新人の“警備力”を“1”とするなら……みたいな指標が仮にあったとしても見事に当て嵌まらないのが警備員なのだ。何故ならば、“警備力”には個人差があり、歴を積めば積むほどマイナスに向かう猛者がいるからである。



「俺が一人でやるしかないのか……」


カシャカシャッ

ぶぅん


「あれ?意外と遅い?これなら俺でも避けられるが……?」


 出会った瞬間即粉砕。これがルビアラの闘い方だった為か、実際に骸骨と闘ってみると骸骨の遅さが浮き彫りになった感じがしていた。

 だが、俺が持っている武器は何も無い。ルビアラが使ってたハンマーはかなりの重量がありそうだと考えられるから、俺が取りに行ったところで使えるとは思えなかった。

 そうなると俺の拳が火を吹く……ワケには行かない。相手は骸骨……要するに骨だ。人体で一番硬いのは骨と言われている。そんな骨に対して俺の拳を武器にすれば、骨を砕く所か、俺の肉が裂けるだろう。

 目の前の骸骨の骨密度が低ければ辛うじて勝てる可能性はあるが、一か八かの賭けに出るほど俺は無謀じゃない。



誘導灯ニンジンじゃ逆に折れそうだしな。おっと……危ない危ない。あんな遅い攻撃でも喰らったら痛そうだからな。骨に勝てそうなモノは何か無いか?」


こんッ

「石かッ!よし、これならッ!子供の時に鍛えた俺の右腕が唸るぜッ!」


しゃッ

 すかッ


「だあぁぁぁぁ、石が小さ過ぎて、ピンポイントで骨に当たらねぇッ!もっと大きい石は?」

キョロキョロ


 そんなモノは無かった。手頃な石は手頃過ぎる以上に小さく、木の枝すらないこの迷宮ダンジョンで俺は手詰まりだった。



カシャカシャ


「いや、待てよ?アイツ動きが遅いから、俺一人なら逃げられるんじゃないかな?——いや、ダメだ。そうなったらルビアラを放置する事になる。ルビアラはアレでも女性なんだ。見捨てるなんて俺には出来ない」


 確かにルビアラを見捨てれば逃げられるのは目に見えている。だが、ここまで大騒ぎをしているのに、ルビアラが追い付かないってコトは、ルビアラの身に何かが起きてる可能性がある。

 そんな状態のルビアラの元へ、この骸骨が向かったらそれこそ恥の上塗りだし、俺がサフィアスから何を言われるか、たまったモンじゃない。



「これはッ!?そうだ、コレなら使えるッ!俺としたコトが忘れてたぜ。誘導灯ニンジンだけが警備員の装備じゃないんだ」


 俺はたまたま手が触れた革帯ベルトが金属製ってコトを思い出していた。警備員の使う革帯ベルトは、現場で万が一転落したとしても、油圧ショベルユンボなんかで吊り上げられるように丈夫に出来ているコトから、尾錠バックル部分はツク棒二本の二ツ穴仕様だ。

 金属部分が多いってコトは、それだけ攻撃力があるってコトになる。そして、もう一つの金属製装備品も思い出していた。



「喰らえぇぇぇッ!」

びゅんッ


 俺は革帯ベルトを外すと先端部分剣先を握り締め、しなる鞭のように骸骨の頭を目掛けて振りかぶって、横に薙いだ。



びしッ

 ぽこーん

  ごてッ

   クルクルクルクルッ

「やったか?頭骸骨を弾いただけじゃ、ダメか?それならッ!」


 見事にヒットした革帯ベルトは骸骨の頭を弾き、その身体から引き剥がしたモノの、骸骨の動きは止まらない。頭を失ってもまだ、俺を攻撃しようと向かって来ていた。

 だから俺は追撃の一手に出た。ルビアラはハンマーで骸骨を粉砕するコトで倒していた。だったら、頭蓋骨を粉砕出来れば倒せる可能性が見えて来る。



「喰らえ、安全靴トーキック!」

ぱきゃッ


 俺が思い出したもう一つの金属製装備品。それは“安全靴”だ。最近じゃ、鉄板の代わりに樹脂製のセーフティシューズってのが多くなって来ているが、ウチの会社は重たい鉄板製の安全靴を使っている。

 会社の隊員達からは不評なこのJIS日本産業規格製の安全靴の破壊力は折り紙付きだ。でもま、安全靴を履いてても足の指を骨折する事故は年間で結構な件数があるから、一概に“安全”とは言えないんだけどな。

 そしてこれは非常に大事なコトだから敢えて言わせてもらう。「“安全靴”で人を蹴るのはやめましょう」ってコトだ。今回は相手が骸骨だから良しとしても、良い子は真似したらダメだぞッ!



「やったか?手応えはあった。頭蓋骨は粉々になってくれた。コイツの身体はどうだ?」


さらッ

 コロンッ


 こうして俺は一人で骸骨を倒すコトに成功した。そして更にビールをゲット出来た。流石に今すぐに飲むようなコトをするワケが無いから、ポケットに一旦仕舞っておく。



「よしッ!ルビアラの様子を見に行くとしよう」


 いつまで経っても追い付いて来ないルビアラを俺は見に戻ったワケだが、俺は流石に後悔した。それは……。



「ぐがあぁぁぁぁッ!ぐおぉぉぉッ!すぴーーーッ。がっ……ぐごおぉぉぉぉッ」


 ルビアラの盛大なが聞こえて来たからだった。だが、寝ているルビアラに対して、骸骨がよってたかって攻撃していた。ってか、なんで起きないの?

 その前に睡眠時無呼吸症候群みたいながしてたけども……?



「おいおい、骸骨が三匹もいるぞ。それなのにルビアラは余裕で寝てる……仕方無い。骸骨を倒して、ルビアラを連れてこっから戻るとしよう」


 要領はさっきと同じ。先ずは革帯ベルトで頭を弾き飛ばし、安全靴トーキックで粉砕。それを三回繰り返せばビールが三本手に入る簡単なお仕事……のハズだった。骸骨二匹まではそれで上手く行ったんだが、三匹目で油断した。

 振りかぶった革帯ベルトが頭を弾けず、肋骨の辺りに当たり、そのまま尾錠バックルが骨に引っ掛かるという一大事になったのさ。



「こなくそッ!引っ掛かってるならそのまま強引に引っ張るまでッ!」

ぐいッ

 クルクルクルクル

  ごとッ


「しめたッ!安全靴トーキックッ!」

ぱきゃッ


 喩えるならば、着物を着た女性の帯を引っ張って「あーれー」みたいな遊戯をした感じになった。まぁ、相手が骸骨なので華は無いし、遊び甲斐も無い。だが、その場でクルクル回った骸骨は目を回したのか、頭蓋骨をそのまま地面の上に落とした。

 骸骨に目があるかと問われれば無いとしか言えないが、願っても無いチャンスを俺が見逃すハズも無く、そのまま三匹目の骸骨も無事に倒し切り、ビールを追加で三本ゲット出来たってワケさ。



「ルビアラ、起きろ!こんな所で寝てると死んじまうぞッ!」


「ぐごおぉぉぉぉッ」


「クソッ!仕方無い。強引に連れて帰るしかないか……これは不可抗力だからな?触っても殺してくれるなよ?——よいせっと!」


 前に護身術を資格試験でやるって話しはしたけど、その試験科目の中に「負傷者の搬送要領」ってのがある。これは流石に護身術みたいに採点に関係あるかと問われれば採点に関係があるから、手抜きは出来ない。だから俺はその手順に従って、酔っ払って寝てるルビアラを連れ、来た道を戻って行った。

 まぁ、ルビアラは負傷者でも何でもないが、経験ってのは大事だってコトだな。


 長年警備員やってても、そんな経験使う機会が全く無いのにな……。

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