第17話 第十二条 認定証の交付を受けた者は、次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、遅滞なく、認定証(中略)を(中略)公安委員会に返納しなければならない(各号割愛)

 この世は大警備員時代である。警備業には各号それぞれ資格がある。会社が警備業協会に加入していればその資格は取りやすく、協会に加入していないと取り辛い。拠って、個人でその資格を取ろうとする場合には限りなく“運”の要素が作用すると言える。



「なぁ、ルビアラ……ここには本当にモンスターが出るのか?」


「なんだ?怖気付いたのか?ここが迷宮ダンジョンなら確実にモンスターは出るぞ?」


カシャカシャ


「さぁ、お出ましだ。さっそくご対面といこうかッ」


「ッ!?ルビアラ、これって?」


「ここのモンスターは“スケルトンモドキ”か!これなら楽勝だなッ!どおりゃあッ!」


ぶぉん

 ぱきゃッ

コロンッ


 動く骸骨を俺は初めて見た。そりゃ確かに昔やったゲームの中では見たけどさ。リアルで普通に動く骸骨なんて気味がいいモンじゃない。だが、それをルビアラは躊躇すらせずに文字通り粉砕して行った。

 ってか、その前にスケルトンモドキの“モドキ”って何だよ!モドキってコトはあれなのか?何かに擬態したりすんのか?

 ん?ルビアラが倒した骸骨が何か落とした……が?



「ルビアラ、コレが何か分かるか?」


「コレ?あぁ、力の結晶だな。モンスターを倒すと必ず落ちるソレは、特に何の役にも立たないぞ?」


 何も役に立たないと言われてもコレさ……どう見たって自販機とかで売ってる“缶”なんだわ。それも缶コーヒーでお馴染みのショート缶(250ml)……パッケージは何も書かれてないから中身が何かは分からない。



プシュッ


「オマエ、一体何をやってるんだ?おい、まさかオマエそれを飲む気か?」


ごくッ

「ッ!?」

 ごくッ

  ごくッ

   ごくッ

「ぷはぁッ!スゥパァドゥルァァァァイ」


「飲みやがった……ってかオマエ正気か?頭は無事か?」


「これは“ビール”だな。量が少ないし、もう少しキンキンに冷えてくれてたら最高なんだが……。しかしこの世界で初めて呑んだ……日本を思い出す懐かしのあの味わいだ」


 骸骨が落とした缶の中身はビールだった。ショート缶じゃ、あからさまに少ないし、呑み足りないのも当たり前なんだが、流石に迷宮ダンジョン内で酔っ払うのはどうかと思うから、このくらいが丁度いいっちゃ丁度いい。



「“びぃる”って何だ?」


「ビールは酒だ。この世界にも酒はあんだろ?」


「あるにはあるが、高級品だ。それが、その中に入っているのか?」


「発泡性で独特の苦味があって、嫌いな人はとことん嫌いだが、俺はこのビールが好きなんだ」


「よし、オマエが呑めたんだ。次にスケルトンモドキが落としたら次はアタイがもらうぞ?いいよな?」


 こうして俺達のビール狩りが始まった。この日、一階層と呼ばれる場所で狩り取ったビールは十六本。最終的に計四リッターのビールをゲットしたワケだ。流石にそれをその場で全部飲み干したら千鳥足になるのは目に見えてるし、骸骨と闘う所の騒ぎじゃないだろう。

 だが、このオークルビアラ……元から顔は赤みがかっているが、呑んでも呑んでも酔う気配が無かった。どうやらルビアラもビールが気に入ったらしい。

 骸骨を血眼になって探し、見付け次第容赦無く粉砕している姿を見ると、逆に骸骨が可哀想になって来る思いだった。




「何ッ!?それは真か、ラピシリア!」


「はいッ!今、トリィ様とルビアラ姐さんが様子を見に行ってくれてます」


「サフィアス閣下、如何が致しますか?街中に迷宮ダンジョンが出現したとなると、国の一大事になります」


「ジスト、急ぎ国王に報告を。私はその新たな迷宮ダンジョンに向かう。青騎士の中で動ける者を早急に集めよッ!」


「はッ!」




「あぁ、これじゃダメ可愛くない。この服にはあっちの色が合ってるかしら?それともこっちの方が映える?」


「王女殿下、いつになったら決まるんでっか?それとも見せる気マンマンで選んではります?映えたいんでっか?」


「見せないわよッ!次見られたら本当に恥ずかしくて死んじゃいますからぁッ!でも、見られてもいいような下着じゃないと、安心出来ないじゃないッ!」


「困った王女殿下やわ……ところで何やら外が騒がしいような?王女殿下、ウチちょっと様子を見て来るさかいに、早よ選んどいてや」


「あぁもうッ!これじゃ派手過ぎ!でも……トリィ様はどんな下着が好みなのかしら?」




「サフィアスのあんさん、どうしたんでっか?そんなに血相変えて」


「エメリルダか。先程、ラピシリアから火急の知らせが入ってな……」


「ラピシリア?あぁ、トリィのあんさんにベタ惚れのハーフリングかいな?あれ?でも、さっきまでトリィのあんさんと一緒におったやろ?それがなんで火急の知らせに繋がるんでっか?」


「実は、トリィが購入したあの家に、迷宮ダンジョンがあったらしいのだ」


「なんやてぇッ!そら、こうしちゃおられんわ」




「王女殿下、急ぎトリィのあんさんの元に戻りまっせ!」


「エメリルダちょっと待って!まだどれにしようか決まってないの!」


「そんなんええからッ!早よせんと、トリィのあんさんの命が危機でっせ!」


「えっ?!それってどう言う事?なんで、トリィ様の命の危機が?」


「あの家に迷宮ダンジョンがあったそうなんでっせ!」


「なんですって!エメリルダ、直ぐに駆け付けますよッ」

ふぁさッ




「おい、ルビアラ……大丈夫か?」


「アタイは酔っ払いじゃないのらッ!ほら、次のスケルトンモドキ狩って、もっとアタイに飲ませるのらッ!」


 ルビアラは突然酔っ払った。狩り取ったビールを呑んでは倒し、呑んでは倒しを繰り返していたのだが、十六本目を飲み終えたら急に呂律ろれつが回らなくなり、足が千鳥足になった。酒を飲んでは暴れているのだからアルコールが急激に回って臨界に達したのだろう。

 俺が飲んだのは最初の一本だけだから、まだ大丈夫だが、全ての戦闘を担っていたルビアラがこの様子だと次に骸骨と出会でくわしたら命の保証は無いかも知れない。



「ルビアラ、ほら帰るぞ?様子見は終わりだ」


「待つのら!アタイは酔っ払ってない。まだ飲めるのら。ほら、まだまだ狩り取りに行くのら。いや、むしろ、オマエが狩ってアタイの為に持って来るのら」


 この状況になっても俺はルビアラに触ろうとしなかった。もしもルビアラに捕まりでもしたら、その膂力りょりょくで俺の意思に反した方向に骨が曲がり兼ねないと感じたし、酔っ払っているのであれば尚更自制が効かないだろう。

 だから俺はルビアラと距離を取った上で、来た道を戻って行く……が、ルビアラはまるで駄々っ子のように地面に転がってジタバタしていた。


 ここまでの道中は一本道だった。分かれ道も無い。だから帰りはラクだと感じていたし、道中にいた骸骨は全て粉砕したから、戻って行く分には襲われる心配も無いと考えていた。

 しかし、先を急ぐ俺の目の前に、骸骨が現れたんだ。



「マジかよ……?ルビアラは遥か後ろ。俺は闘える武器も持って無いってのに。それにさっき全部粉砕しながら先を進んだのに、なんでまだいるんだよッ!」


 簡単に言うと絶体絶命の危機ってヤツだ。手持ちの武器は無い。俺の唯一の武器は駄々っ子をしてる。こんなんならルビアラを引き摺ってでも連れて来るんだった。

 まぁ、その時はその時で命の危険があるんだけども……。

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