第15話 第十条 警備業者は、警備業を廃止したときは、内閣府令で定めるところにより、公安委員会に、廃止の年月日その他の内閣府令で定める事項を記載した届出書を提出しなければならない

 この世は大警備員時代である。警備員は請け負いなので、現場の職人と同じような扱いなのだが、更に言えば二次請けや三次請けの職人よりも上位請けなのだが、一番の下っ端としてコキ使われる事もある。……が、基本的に契約外行為である。



「な……なんだ……コレは?」


 俺の目の前には絵に描いたような……いや、訂正させてくれ。絵にもゲテモノ。モザイクで隠しても隠し切れない、生まれたコトを後悔させるようなシロモノ。ん?それだと生産者に大変な風評被害があるので、更に訂正しよう。要するに、食べ物には決して見えないナニカだった。

 ※後でスタッフが美味しく頂いてました。



「えっと……コレを作ったのは、誰?」


 俺の質問に対して、返事をする者はいない。要するに戦犯は名乗り出ない。



「トリィ様?コレ、案外イケますよ?」


 そして、それを美味しそうに食べるタリア……。俺の斜め上を行く想定外のタリアの行動に、俺は絶句しか無い。……が、タリアが美味しそうに食べてる以上、俺が全力否定するのも不可能になった。



ごくりッ

「くっ……そうだ!先にルビアラとエメリルダさん、先にご賞味あれ!」


 「ご賞味」って言葉は「美味しく味わいながら褒め称えよ」的な意味があると思う。流石にこの状況で俺が言うのは皮肉だが、ルビアラはその言葉に従い、難なく料理ゲテモノを口に運んで行った。



「オマエはただの食わず嫌いだな?こんなにもウマいのに」


 いやいや、それならなんで「誰が作った?」の問いに名乗り出ない?ウマいと豪語するなら、少なくとも名乗り出るモンだろ?要するにそれは、見た目が悪いから名乗り出たくなかったって意味なのか?

 あれ?エメリルダは食べないようだが……。



「エメリルダさん、どうしたの?」


ドキッ

「い、いやぁ……その……ウチはマンドレイクだから、水と日光があれば生きていけるっていうか、うん、食べなくても問題無いかなぁ……あはは」


 あれ?関西弁じゃなくなってる?要するにエセ関西弁だったってコトかな?それとも、重大な何かが?



「トリィ様、美味しいですよ?わたくしが食べさせてあげますね。はいッ、あーーーん」


 突然の「あーーーん」って、俺はどうすればいい?二人が見ている前で、普通に「あーーーん」ってやっていいのか?それにルビアラもエメリルダもいつの間にかこっち俺の方を凝視している。なぁ、誰か教えてくれ!俺はどうすればいいんだ?

 イチャラブな感じと共に漂う死の香り……俺の明日はどっちにある?



ばんッ

「そこまでですッ!これ以上のラヴしゅうを漂わせるなら、わたしも混ぜて下さいッ!わたしも、トリィ様を狙ってるんですからあぁぁぁぁぁぁッ!置いてけぼりにしないで下さいぃぃぃぃぃぃッ!」


 突然の来客。扉を勢い良く開け、その場に居合わせた全員の目をパチクリさせたのは、言わずとも知れたラピシリアの姿だった。



「ら……ラピシリアさん?もう来たの?打ち合わせは午後イチくらいでって言った気がするんだけど……」


「ルビアラ姐さんが食材を買っているのが見えたので、こうなるんじゃないかって、後を付けてこっそりと様子を伺ってましたッ!」


 ラピシリア……うん、それってストーカーって言うんだよ?とは言っても、闖入者ラピシリアの登場で救われたのは事実だ。



「どこの誰だかは知りませんが、眼力の凄いお方!悪食なオーク族と違って、人間族はそのようなゲテモノを食べたらお腹を壊します!それに、どう見たって毒気があるソレは料理とは言えません!だから毒気の塊のようなマンドレイクも食べないではありませんかッ!自分の毒気より、そちらの毒気の方が強いと分かっているのです!」


 俺は何も言えないが……いや、ラピシリアの投げた言葉はこの場にいる、俺以外の全員を敵に回したぞ?

 タリアもルビアラも、エメリルダも額に青筋を浮かばせてピクピクさせてる。俗に言う一触即発の修羅場……ってヤツだよな?



「貴女はラピス商会のラピシリアだったかしら?わたくしに向かって“悪食”ですって?純粋なオークのルビアラと一緒にされるだけでも腹立たしいです!覚悟は出来ているんですよね?」


「お嬢、ダメだッ!それ以上はッ!」


 タリアは青筋を浮かべたまま立ち上がりラピシリアに向かって啖呵たんかを切った。やっぱりエメリルダは関西弁じゃないが、語気から相当焦っているように感じられる。

 そして啖呵を切られたラピシリアはオドオドとして、オズオズと後退りを始めた丁度その時……。



「その身に刻みなさいッ!鋼糸鋼線華ッ!」

つるんッ

 どてッ


バッ

「ととと、トリィ様?見ました?」


「ごごご、ごめん。見てない見てない!ピンク色だったなんて、絶対に見てない!」


かあぁぁぁぁッ

「イヤアァァァァァァァァァァッ!」

だッ


「お嬢ッ!ちょ、待って……どこに行くんやぁぁぁぁぁ」


 テーブルから離れた場所でラピシリアを追い詰めた獅子タリアだったが、タリアは脚を大振りに振りかぶった矢先に、何故か派手に転んだ。その場で派手に転んでいたら、料理が巻き添えになったと思われるから、それに関しては僥倖だ。だが、転ぶ要素がどこにあったのか分からない。

 そんでもって、障害物が無い場所で派手に転んだ挙句、何故か俺の方に向かって開脚したモンだから、俺の視線はスカートの中身に釘付けになった。


 これは完全なる事故だ。俺に過失は絶対に無い。ラッキースケベって言うヤツだが、タリアはそれを認めたく無いのだろう。

 拠って、絶叫を上げながらタリアは開け放たれたままの扉から外に出て街中を爆走して行った。

 タリアの後を追い掛けて行ったエメリルダの関西弁が、辛うじて俺の耳に入って来ていた……そんなお昼時の一場面だった。



「ところで、ラピシリア……さっきの言い分、アタイにも思うところがあるんだが?」


「る、ルビアラ、ここの食事は全部食べていいからな!俺達は先に向こうに行ってるから、食べ終わったら食器とか片付けを宜しくな」


 修羅場再び……になる前に俺はラピシリアの背中を押し、物置きに向かうコトにした。心なしかラピシリアの顔が赤らんでいる気がしなくもないが、俺に女心なんて分かるハズも無い。



「さぁ着いた」


「トリィ様……その……優しくして下さい。わたし……初めてなので」


「えっと、ラピシリアさん?」


「もうッ!ラ〜ピスってちゃんと言って下さいッ!わたしの初めてなんですから、ムード作りは男の甲斐性ですよッ!」


 ああぁ……俺って女難の相でもあるのかな?日本にいた時はこんなコトなかったのにな……。ハッ!?これがモテ期ってヤツなのか?

 いやいやいや、これが喩えモテ期だったとしても、タリアさんに告白しちゃった以上、ラピシリアに浮気なんて……って、俺は何を言ってるんだ?勘違いにもホドがある。



「ラピシリアさん?巫山戯るのはそろそろ止めようか?そうじゃないと、これからラ〜ピスなんて、二度と言わなくなるからね?」


「しゅん……それで、これは?」


「昨日、ルビアラが発見した前にこの家を使っていた人の残置物ざんちぶつらしいんだ」


「ザンチブツ?えっと、忘れ物ってコトですか?」


 難しい言葉を使いたくて使ったワケじゃない。警備員やってるとよく聞く言葉だから、なんとなく使っちまっただけだ。深い意味は無い。



「前の住人のなら、返さなくちゃダメだろ?」


「トリィ様達が購入される前のこの家は確か……そうだッ!二人組の冒険者さんに一ヶ月くらい借してまして……でも、その二人が溜め込んだ量には見えませんね……それだと更に前の居住者の方になってしまうので、追い掛けるのは容易ではありませんよ?」


 ルビアラからどの程度のモノが詰め込まれているか聞いていなかったから、物置き部屋に入るまで俺は少量の物品があるだけだろうと思ってたワケだが、現状で俺の目の前には俺の身長を遥かに超える高さにまで積み上げられた木箱が見える。

 そもそもこの家の一番奥にこんな物置き部屋があるとは思ってもいなかった。内見の時は手前に壁があったハズなんだが、いつの間に改築したんだろうな?

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