第7話 第一項第四号 人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務
この世は大警備員時代である。警備業は派遣業と勘違いされる事が多いが、その実は請負業だ。よって「現場に派遣される」と言う警備員は多いが、それは間違いである。
まぁ、派遣と請負の区別の違いが付かない者が多いとも言い換えられる。
バんッ
「おはようございます、本日は爽やかな朝ですね、サフィアス閣下!」
「ルビアラ……お前はもう私の部下では無い。ルビアラはトリィの側仕えなのだから、挨拶をするならそちらが先だろう?」
「あぁ、なんだ……いたのか。普通の朝だな」
温度差で風邪を引きそうだ。ルビアラがサフィアスにご執心なのは、命を救われ“騎士”という仕事を与えられたからなのだろう。
単純にサフィアスの顔に惚れたとか言われたら俺はどうしようか悩むところだが、そんなコトはどうだっていい。
「それではなトリィ。昨夜聞いた装備は試作が届き次第、部下に送らせる。ところで日中にこの屋敷から出る予定はあるか?」
「そうだな。会社を作るなら拠点は必要だから、物件を見に行きたいと思ってはいるが……」
「カイシャ?“商会”のような物か?それならばルビアラと一緒に行くといい。ルビアラは騎士をしていたからな、この街の地理には詳しい筈だしそれに何かあった時にトリィの助けになるだろう」
どうあってもサフィアスは、俺にルビアラを押し付けたいらしい。だがルビアラと行動を共にして、俺の命が逆に尽きそうってのは考えてくれないのだろうか?
「そうだ、先にコレを渡しておく。物件を見に行くならあった方がいいだろう」
「
「必要になる筈だ。とっておいてくれ。それでは私は仕事があるから屋敷を開ける。色々と頑張れよ、トリィ!」
確かに俺は、こっちの世界で使える金を持っていない。だから助かると言えば助かるのだが、渡された袋の中に入ってる金がどれくらいの価値なのかは分からない。
ってか、俺としてはあんまり頑張りたくないんだが……。果たして今日を無事に生きていられるだろうか……。
「なぁ、ルビアラ……こっちの世界の貨幣価値って?ヒィ、すんませんッ!」
ルビアラは俺を睨んでいた。何故睨まれていたのかは分からない。だが、睨まれた俺はカエルのように縮こまるしか出来なかった。
「よくも……よくもッ!サフィアス閣下の清らかで高潔な手に人間族風情が触れられたモノだなッ!」
「ふぁ?!いやいやいや、俺はサフィアスからコレを受け取っただけだぞ?いや、確かに手が少しだけ触れたかも知れないが、そもそも俺達は男同士だ。ルビアラが抱いているような感情は、俺には無い!」
「なんだと?あのサフィアス閣下に対して、恋慕の情を抱かないなど許せんッ!アタイがオマエを教育してやるッ!」
一体どうしろって言うんだよッ!何をしていいか俺には分かんないって!ルビアラは俺に対して、サフィアスに恋愛感情を抱けと言ってるのか?もしも例えば仮に、俺がサフィアスに恋愛感情を抱いたらルビアラは俺を認めないだろうし、その気持ちを許さないと思う。
ってか、これって「悪魔の質問」って言うんだっけか?そうなったら完全に、俺がクーリングオフ制度を作る前にこの世からいなくなるよな?
「ルビアラ、よく聞け!俺に何かあったら、サフィアスはルビアラを嫌いになる。それに、俺が今日やるべき事が出来なければ、サフィアスはルビアラを怒るだろう。——いいのか?」
「サフィアス閣下が、アタイを……怒る?いや、それはご褒美だ。よし、オマエを教育してやる!それなら、アタイは閣下からご褒美を得られるし、オマエに閣下の魅力を伝えられる。一石二鳥じゃないかッ!」
なんでこおなったぁッ!もう俺はルビアラ教育を強制的に受ける選択しか無いってコトなのか?
がちゃッ
「ルビアラ、ちゃんとトリィの命令を聞け。聞かぬなら、いくらトリィがルビアラを見初めたのだとしても、この国から追放する。覚悟しておけよ?」
渡りに船……と言うよりは、絶対にサフィアスは扉の向こうで聞いてたヤツだよな?俺の勘はサフィアスの腹が黒いと告げている。もう、サフィアスを信じていいのか分からなくなるコトばっかりだ……。
「全く!なんでアタイがこんな男と一緒に
腹黒サフィアスの一言が決め手となり、俺は無事に物件探しに出るコトが出来た。その道中で貨幣価値を確認しようと思ったのだが、ルビアラは俺の話しなど聞く耳持たない様子で、質問しても返答の一つも無い。
拠って俺はルビアラの愚痴を延々と聞き続けるコトになった……。
「ルビアラ、物件はどこで見れられる?」
「アタイがこんな男と一緒に……」
「ルビアラッ!サフィアスにチクるぞ?」
「それは勘弁してくれッ!後生だッ!物件が見たいならこっちだ!」
ルビアラが素直に言う事を聞いた。これは俺にとって小さな一歩かもしれないが、警備業にとっての大きな一歩に……なるワケないな。
「いらっしゃいませ〜。ようこそラピス商会へ!あれ?この国で人間族なんて珍しい!それに後ろにいるのはルビアラ姐さんじゃないですかッ!さては……デートですか?一緒に住む家を探しに来たんですかッ?」
キッ
ルビアラ……何故俺を睨む?「デート」やその他諸々の発言をしたのは、店のお嬢さんだろう?ってか、どう見たって人間にしか見えないんだが?えっと……どう言う事?
この国に人間はいないって言ってたよな?
「俺の名前は鳥居。サフィアスの屋敷に世話になってるんだが、ワケあって物件を見させて欲しい。頼めるか?ってかその前に、お嬢さんは人間じゃないのか?」
「まぁッ!お嬢さんだなんてッ!口が上手過ぎですッ!さては、わたしを口説くつもりですか?まぁ、わたしはまだ経験がありませんから……って、何を言わせるんですかッ!わたしは惚れやすいんですからッ。もうッ!」
「オマエ、女であれば見境無いんだな……。見損なったぞ」
えっと……ルビアラからの殺意がひしひしと伝わって来るんだが……。それに店のお嬢さんは顔を赤らめて恥ずかしがってるし……。俺は一体どうすればいいんだ?
誰か……教えてくれよ……。
「えっと、ごほん。改めましていらっしゃいませトリィ様。わたしはハーフリング族のラピシリアです。こう見えてまだ誰とも付き合ったコトがありませんッ。もし良ければ、わたしを“女”にして下さい」
「ふぇッ?!いやいやいや、そりゃそうでしょうよ?だって見た感じ、まだ十代かそこらでしょ?早いうちから誰かと付き合って変な経験積むより、よっぽど健全で良いじゃない!だから、初めては大事にしなきゃダメだぞ」
「もう、トリィ様ったら本当に口がお上手ですねッ!本当に惚れてしまいそうです」
「オマエさ、ラピシリアがハーフリング族って言ったのを聞いてなかったのか?」
少なくとも俺は種族名を言われてもピンとすら来ない。だからこそ、見た目が全てであり今も尚、ルビアラの年齢を信じられていない。
「わたしはこう見えて、もう四十代なんです。それで未経験なんて、出遅れてますよね……。わたしもルビアラ姐さんみたいにデートしたいですぅぅぅぅ」
キッ
えっと……この世界の人って若作りなの?どう見たってラピシリアは、小学生か中学生くらいの女の子にしか見えないし、手を出したら犯罪ってレベルだ。
いやいや待ってくれ!俺は小学生や中学生に手を出したいとか言ってるワケじゃないからな!
ってかその前にルビアラ……どうして俺を睨むッ!?
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