第二十七話 目覚める最悪

 奴の脈拍と同時に気温が上昇する。

 周囲の温度を跳ね上げるのは、まだ奴が完全に目覚め切っておらず、意識が目覚めると同時、身体が活動を始めているためである。

 上昇する気温に頭痛がする。幻覚が見えるほど、頭がぼやけている。

 天音に掛けてもらった護術とやらの効果でも限界が来ている。耐熱性をカウンタで無理やり上げなければ、耐えられない。今にでも倒れてしまいそうだ。

 「クソっ。化け物が――」

 意味もなく悪態を吐く。クレア達が応戦をして、少しでも勝てそうかという淡い期待を抱いたところで、最悪の事実が発覚した。

 奴はまだ、戦いすら行っていなかったのだ。

 イグナイスにとって今までの攻撃は蚊に刺された程度のこと、一切ダメージを受けていないのだ。

 あまりにも理不尽、圧倒的なまでの力の差。根本からして、全く違う存在なのだと思い知る。

 周囲の俺と同様にその事実に気づいた者達は画然と膝を着く、あまりの絶望感に戦うことを諦めてしまったのだろう。そして、そんな中、追い打ちをかけるように竜は咆哮を上げた。


 「ヴッァァァァァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッッッ―――――――!!!」


 その方向は大地を揺らし、空を割るように鳴り響いた。まだ戦う意思の在った者達まで、今の咆哮で戦意を刈り取られる。自身が喰われる側の存在だと思い知る。

 周囲に暗雲が立ち込めると同時、異様な熱気が充満する。

 肉は焼けて、骨は溶ける。脳髄がドロドロに溶け出てしまいそうだ。立っているだけで辛い、このまま倒れてしまえればどれだけ楽だろうか、そう思った。

 「起きろ――!」

 バチンッと両手で頬を叩く。

 飛びそうな意識を無理やり呼び覚まし、前を向かせる。

 俺の目的を思い出せっ!

 そう、俺の目的はクレアがくれたモノ。クレアの願いは自身を見届けること、俺はそのためにこの場になっているのに、その目的を忘れて眠っていい筈がない。

 それに彼女はまだ諦めていない。

 キラキラと輝く少女の光を俺はしっかりと捉えていた。

 それは――彼女が使い魔術、魔弾の光だ。

 「連続装填――圧縮魔力弾バレッタ発射ファイヤ

 目を覚ましたイグナイスに向かって光弾が放たれる。無数に展開される光弾は容赦なくイグナイスを襲った。そして、彼女の光弾と共に再び周囲から攻撃が始まった。

 災厄は始まったが、それでも彼女達は戦うことを諦めていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る