第二十六話 総攻撃

 様々な兵器、魔と聖、科学と神秘、現代技術の全てを投下して行われる戦闘。

 太古の昔、あらゆる組織、種族が一丸となって殲滅を行われた存在。今回とは規模も存在も比べ物にならないほどのモノが、過去には地球に落ちて来た。

 全勢力の総攻撃を受けて尚、仮眠状態にすることしかできなかった存在。その名は――

 「文献で読んだ〝破滅の星〟とやらが落ちた時はこんな感じだったのかもな」

 手に持ったショットガンをフリーカー目掛けて発射する男はそう言った。

 彼の名は、デバル・ラギュスタリル。フリーの魔術師であり、報酬さえ払えばどんな汚れ仕事も請け負う人物だ。

 「知らないね。ていうか、それは確か結構最近に再稼働したそうじゃない。まあ、噂の〝異能殺し〟と、〝始祖の姫〟とやらが、葬ったらしいけど」

 金髪ショートヘアーの女は、そう言いながらフリーカーを次々と倒していく。

 彼女はデバル同様にフリーの魔術師である。名前はアネイル・アーリスタ、デバルからは相性でアーネと呼ばれている。

 「らしいな。二年前にその話は聞いた」

 「聞いた? ああ、確かアンタ、反則と知り合い何だっけ?」

 「フリーの魔術師やってると、案外、アレとの関わりはできるからな。というか、アイツは結構色んなところと繋がってるからな」

 ショットガンのリロードと共に、手に持ったナイフでフリーカーの喉元を掻っ切る。あまりにも鮮やかな動き、その動きの随所に熟練者の色を感じる。

 「それで実物はどんな感じなの?」

 「まあ、会えばわかるが、噂はあんまり当てにならないな。多少独善的だが、基本はお人好しな一般人、殺気も威厳も在ったもんじゃない。アレは平常じゃ、ただの〝人〟だ」

 「平常は、ね」

 「ああ……アレが一度切り替われば、生命体の上下なんて関係ない。眼前の敵をあらゆる手段を以て、確実に〝殺す〟存在になる。アイツに掛かれば、あのデカ物だって簡単に解体できるだろうな」

 男はイグナイスに目線を向けつつ、周囲の敵に一定の警戒を払う。

 「どんな化け物よ、それ」

 「同感だが、そういうモノなんだよ、アイツはな」

 「お二人とも。お話し中悪いですが、戦闘に集中してください。給料分は働いてもらわないと困りますよ」

 スラリとした体形の優男が雑談をする二人にそう注意した。

 この男の名は、マルク・ホースベル。星十字団の一員であり、ミサリ直系の部下である。同時に、デバルとアネイルの雇い主でもある。

 「へいへい、わかったよ。命令だ、アーネ、気張るぞ」

 「言われなくても、こっちは最初から全力出してる」

 フリーカーを撃破しつつ、アネイルはそう言った。

 「ミサリ様はお先に行かれたか……ゼレ様のため、私もこの責務、全力で果たさしてもらいます。お二人とも、引き続きフリーカー狩りを任せます」

 「了解だ」

 「了解」

 デバルはショットガンをリロードしつつそう答えた。アネイルは引き続き、魔術を使用してフリーカーを狩り始める。



 イグナイスへの攻撃は様々な兵器を使用して行われたが、その一切が効かない。

 佇む竜には一切の攻撃は通用しない。

 クレアやミサリ、ルジュ、天音、沙耶、九嶽などの魔術師や霊術師、結界師、その他、様々な組織から集められた者達があらゆる手段を用いて攻撃をした。

 竜は攻撃が効かないどころか、

 おかしい……

 いち早く異変に気づいたのはクレアだった。彼女がイグナイスに最も攻撃を与えている者であり、それ故にこの状況の可笑しさに気づくことができた。

 イグナイスは確かに周囲を高温に晒し、燃やしている。街全てを囲う火、焼き尽くされた無残な街並みだけが残っている。

 しかし――その被害を出して尚、一度もイグナイスは行動していない。

 まさか、アイツ――

 次に異常に気づいたのは叢真であった。

 遠目からイグナイスを観察することで、奴の動きを把握したのだ。否、動かないという事実を発見したのだ。

 「「まさか、まだ眠ってる?」」


 ―――――ドクンッ―――――


 心臓の跳ねるような音と同時、周囲の気温がさらに上昇した。

 最悪は今まさに――目覚めたのだった。

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