第二十三話 イグナイス
空気が変化した――
イグナイスが発していた異質な雰囲気すら飲み込んで、隣に立っている彼女は悠々と立ちはだかった。
「魔弾装填――
右手から陣が展開される。それは今まで彼女が放っていた
展開される陣はゆったりと回転を始め、エネルギーの蓄積を開始する。彼女の周囲には、体を固定するように陣が展開され、さも自身を砲台かのようにしてその場に佇んだ。
「
三層の陣が二列展開され、陣の周囲をクルクルと回り始める。そして、光弾の延長線上に四層の陣とイグナイスを捉える一際大きな陣が形成された。
展開された複数の陣は各々光を放ち、膨大なエネルギーを発している。
「魔力循環完了――魔弾、
その言葉と共に展開された陣がジリジリと稲妻をスパークさせ、右手に展開された陣から魔弾が放たれる。
魔弾は光の柱と成り、イグナイスの元へ飛んでいく。魔弾は陣を経過する度に威力を増し、爆発的な勢いでイグナイスに命中した。
しかし――イグナイスの強靭な鱗を貫通することはできず、弾かれ霧散していく。
あまりにも理不尽な光景。イグナイスは何もしていないのにも関わらず、彼女の全力であろう攻撃を一切の反応を見せずに耐えきっている。
無情に霧散する魔弾、放たれた光の柱が段々とその威力を弱めていく。そんな中、彼女は詠唱を綴り始める。
「魔力循環、
魔弾を放ちつつ、追加で陣を形成する。そして、
「蓄積完了、再装填――
彼女の声と同時、放たれるレーザービームのような光の柱は威力を増し、巨大化してイグナイスへ放たれる。放たれた魔弾は霧散こそしたが、次第にイグナイスの鱗を溶解させていく。
が――ここで燃料切れを起こす。
鱗を貫通間際、魔弾に供給されたエネルギーが途絶え、魔弾が強制的に解除される。パリンと砕ける魔法陣、イグナイスは未だ無傷である。
少し息切れ気味のクレア、流石に魔力とやらが尽きたのだろうか、表情からしてかなり辛そうだ。それに彼女が持つ手札の中でかなりの威力を誇るであろう一撃を無傷で耐えられたのだ、精神的にもかなりのダメージだと思う。
しかし、荒い呼吸を整えた彼女はいつも通りの様子で淡々と事実を口にした。
「やっぱりダメか……まあ、分かってはいたけど、無傷は流石にプライドが傷つつ。これでも周囲からは〝天才〟魔術師と言われてるんだけど……相手が相手だし、仕方ないか」
あれほどの攻撃を防がれて尚、さもあまり気にしてないようにクレアは言った。
虚勢にも聞こえる彼女の言葉、それほどまでイグナイスに勝てる
「叢真、私は行くことにするよ。分かってると思うけど、君はしっかり、私を見守ること」
イグナイスの方に体を向けつつ、顔だけをこちらに向けて笑顔でそう言った。
「ああ、わかってる」
元よりそのつもりだった俺はそう答える。
「ふぅ―――」
クレアは呼吸を整え後、悠々と佇み灼熱の吐息をこぼすイグナイスに強い視線を向ける。覚悟を決め死地への歩みを始める。
「じゃあ、行ってきます」
笑みを浮かべてそういうと彼女は魔弾を展開しつつ、火焔竜・イグナイスへ走って行った。
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