第二十四話 戦線突入

 複数方向から様々な攻撃が行われる戦場に、とある六人が集まっていた。

 「あ、クレアの奴、もう始めてる。ライバルを待ちなさいよ!」

 イグナイスへ爆撃機級の魔弾を放ち続けるクレアを遠目で確認すると、ピンク髪の少女、ルジュは怒りを露わにして文句を言った。

 「まあまあ、落ち着いてください」

 「卑怯よ! 勝負なのに先に始めるなんて」

 「勝負なのであれば、先を急ぐのは当然だと思いますよ、ルジュさん」

 不満を露わにするルジュを宥めるようにミサリが正論を口にする。そんな二人のやりとりを何とも言えない表情で見守る他四人。

 戦線が激化する中、下らないやりとりをしている様子に一人の人物がもの申すように言った。

 「すみません。今はそのような話に時間を割いている余裕はないと思うんですが?」

 修道服を身に着けたロン毛の少年は意義を唱え、二人の下らないやり取りを静止させる。

 「それもそうですね。無駄話をしているような暇はありませんね」

 「癪に障るけど、まあ、その通りだし仕方ないわね。聞いてあげるわ」

 「…………」

 「と、東元君、落ち着いて」

 ルジュの発言に修道服の少年は拳を握り込んで怒りを堪えている様子だった。そんな彼の隣に立っていた同じく修道服を着ている金髪ロングの少女が、宥めるように声を掛けていた。

 必死に怒りを抑える少年の名は宮城士みやぎし東元とうげん、そんな彼を宥めている少女の名はニーニャ・フォン・ルーベルン。

 二人はこの竜伐のために星十字団より集められた教会の執行者しっこうしゃである。

 「気持ちは分かるが落ち着け、宮城士。今は仲間内で争っている場合じゃない」

 「そうそう、落ち着いて落ち着いて」

 「っ――わかっては、いる」

 東元はそう二人に言われ、強く握り込んだ拳から力を抜いた。

 彼を説得した二人の名は鋼上宗衛こうがみそうえい佐城蜜星さじょうみつほし。クレアやルジュ同様に魔術師である。

 「にしてのあの化け物、あの威力の魔弾を受けて無傷っておかしいんじゃない?」

 「そうですね。彼女ほどの魔術師が放った魔弾を大した損傷ないというのは、やはり噂に違わない〝竜〟という存在なのでしょう」

 現在進行形で行われている攻撃を物ともしないイグナイスを見て、その屈強さにその場にいた三人は驚愕する。

 「あの~、ミサリ司令官。私達、あんなのに勝てるんですか?」

 「無理ですね」

 「「「「「――――」」」」」

 ニーニャの放った疑問に対して無理と断言するミサリ、ルジュを含む五人はあまりにも突然の敗北宣言に思わず言葉を失う。

 仮にも竜討伐を目的とした組織の代表役をやっている人間であるのにも関わらず、発破の一つも掛けずに敗北を前提に据えているその発言は、組織の根底を揺るがしてしまうほど最悪な発言だ。

 五人が固まる中、ミサリはさも当然のことを言ったというようにニコニコと笑みを浮かべていた。

 「相手は〝竜〟ですよ? あなた達みたいな一介の魔術師や執行者に何ができるんですか?」

 グサッ、と鋭い言葉が五人の胸を貫く。それぞれ、周囲の中では上位層の人間であるが、相対する存在の大きさはその程度の尺度で推し量れるモノではない。

 「逆に不思議ですよ、少しでも勝利の可能性を見ていることが……まあ、クレアさんやルジュさんであれば、、その可能性は存在するでしょうがね。それと……」

 一切の悪意なく、とてつもなく残酷な事実を突きつける。そして、ミサリの視線がそっと、とある人物に向いた。

 「そ、それでは、星十字団特設のあの学園の意味がないと思うんですが」

 東元が辛うじて反論するようにそう言うと、ミサリは視線を戻して、一言。

 「あの学園にろくな人材が集まるわけないですよ」

 「グハッ――!」

 その一言でノックアウトされる。

 「じゃ、じゃあ、どうすればいいんですか?」

 そう少し心配そうな声で蜜星が言った。

 「仮に、ミサリさんの言葉通りとして、それは星十字団自体の意味がなくなります」

 「まあ、その通りですね」

 彼女の発言にミサリは同意する。

 「じゃあ……」

 「そうですね。さっきも言ったように、私達の勝利の可能性というのは今、戦っているクレアさん、それとこの場にいるルジュさん」

 一同、固唾を呑んで彼女の話を聞いた。


 「そして三年前――唯一、星十字団が討伐した竜、セクターミラド。その決定打を放った者、リリィ・アーネットでしょうか」


 ミサリは竜伐を可能とする三人の名を上げた。

 「まあ、あの時は完全に運が良かっただけですけどね。兆の一の可能性を持つ者が、兆の一を運よく引き当てただけです、今回も都合よくそのようなことが起こるとは思えません」

 五人は押し黙る。彼女の言葉は実にその通りだ、竜を倒すなどという奇跡はそう簡単に起こせるモノではない。不可能の先に存在する、今上げた三人はその可能性を得た者に過ぎない。

 結果を引き寄せることができることなど――不可能。

 重い雰囲気が場を占める。そんな中、その原因である人物が声を上げる。


 「ですが――何もやれなければ可能性するありません」


 絶望的な空気をひっくり返すようにそう言った。

 「可能性がある内は、その可能性がどんなに低くても挑戦する価値はあります。この星十字団は人々を救うために、海に落ちた針を探し続ける者たちが集まった組織なのです。それに私は知っています、億より、兆より、途方もない無限にも等しい中から一を引き当てる者を」

 彼女は不可能を越え続ける者を思い出す。

 幾度の不可能、絶対を越え、己が目的のために全てを越える者。それはあまりにも理解できない存在、誰一人として理解者は居らず、ただ一人、終わり無き始まりを、始まり亡き終わりを、歩み続ける者。

 「それに今回は運良く、兆の一を持つ者が二人もいます。その可能性に掛ける意味はあると思いますよ」

 「……アンタに励まされなくても、私一人でも行くつもりだったわよ」

 強張った雰囲気を変えるように冗談ぽくそういうミサリ、そんな様子にルジュはツンツンとした態度でそういい、他四名も少し気が楽になったように表情を明るくさせた。

 「さて、長話はこれくらいにして、私達も戦線へ突入して行きましょうか。準備はできていますか?」

 切り替えるようにそういうと、五人は各々頷く。

 「ではこれより、竜伐に掛かりましょう――」

 彼女の宣言と共に、五人は火焔竜・イグナイスとの戦闘を開始した。

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