第二十二話 暗夜の灯
暗く沈む空、しかし、街並みは燃え広がった火により酷く明るい。
もうじき深夜二時、竜などという存在がいなければ、俺も眠っている時間だ。こういう時だからこそ、日々の大切さというものに気づかされるのだろう。
因みに、俺は絶賛そうである。
変な夢の後、こんなことに巻き込まれるだなんて思いもしなかった。こんな悪夢、本当に夢であってくれればどれだけよかっただろうか。
叶いもしない願望をこぼし、焔に囲われた街を走る。
「痛っ……まだ、痛むか」
カウンタの連続使用により体の負荷に合わせ、狼型フリーカーの頭部を叩きつけた右腕はその衝撃で拳から肩にかけて複数の裂傷、手の甲、中手骨は骨折。
今はクレアの魔術で骨を繋ぎ止め、裂傷も塞いでもらった。カウンタによる負荷はクレアの魔術でもどうすることもできないため、気合で耐える。正直、今すぐにでも倒れてしまいたい。
「叢真、一様言っておくけど、これ以上の無茶は本当に死ぬことになる。だから――」
「わかってる、無茶はしない。俺だって無駄死にするつもりはないさ。それに、俺の目的は竜との戦闘じゃない、その役目はアンタらだ」
「理解してるならいいけど……」
少し心配そうな表情でそう言った。
その後、俺たちは
皮膚が、肺が焼ける。耐熱性をカウンタで強化しているのにも関わらず、全身がジリジリと焼け始める。眩暈がするほどの熱さ、立っているだけで体力が奪われる。
この場に踏み込んだ瞬間から、周辺の空気がより熱く、異質なモノとなった。
火焔竜・イグナイス――
二本の大きな角、大小四枚の翼、巨大な図体を支える四本の脚、鎧のような灰色の鱗にところどころ青白く光る隙間の様なものが見える。どうやら、あそこから熱を放出しているようだ。
その姿はまさにオーソドックスなドラゴンという見た目だった。
事前情報を多少は聞いていたが、それでも実物を見た今、自身の知識の程度の低さに呆れる。事前に有しているあらゆる人生経験があてにならない。
相対した存在の大きさに心身共に縮こまる。止まれと何度命令しても、手の震えが、足の震えが止まってくれない。
この一日で経験したフリーカーとの戦いなど、何の物差しにならない。今日一の強敵だった狼型フリーカーから感じた脅威を優に超える異常さ、全身全霊でその場を離れろと本能が訴えている。
存在としての格の違い、生物としての限界が違う。
どんなに努力を重ねても、どんなに才能があっても、この生命体を人間が越えることはできないのだと思わせる。現に、俺にはこの生命体に勝てる存在の
それは隣にいる彼女も近い想像をしてしまっているだろう。頬を流れる冷や汗、自身と対象の圧倒的な違いに愕然としているように見えた。
が、次の瞬間、彼女は少し微笑を浮かべた。
「予想はしていたけど、想像以上の怪物だ……まあ、やるしかないのだけど。こうなったら、全身全霊を懸けましょう」
瞳を閉じた。そして、右手を前に差し出した――
「回路――
その言葉と同時、彼女の体からラインが黄緑に発光を始めた。
今ここで、クレア・ファーミス・アーゼンベルグという人間は、命を懸ける戦いを――開始した。
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