第十九話 見えた希望は

 ずっとずっと、私は機械の様な人生を送るんだと思っていた。

 私は目的のための道具で、目的が果たされたら廃棄されるだけの使い捨ても物。

 だから、何も抱かない、何も思わない、何も感じない。だって、何かを抱いたら、何かを思ったら、何かを感じたら、自身の存在意義が破綻してしまう。自分が生きていていい理由が無くなってしまう。そう思っていた。


 昔――ある人に自分の存在意義を話した。

 その人は笑って、その存在意義を否定した。

 その時、私は今まで感じたことのないようなモノを感じて、その人に思った事の淵を全てぶつけた。今まで、こんなに自分が感情的になったことはなかった。

 その人はそんな私を見て、笑って言った。


 『それは〝怒り〟だ。自分を否定されて、君は怒ったんだ』


 その言葉の意味が理解できなかった。

 私は何も感じない、無感動な道具の筈だ。そんな私が怒るなんてこと、在りえる筈がない、戯言だ。でも、彼はその後もその感情のこと、〝心〟のことを話してくれた。

 彼の話は、私の常識を大きく変えた。

 ずっと、自分の人生は道具であることに意味があるのだと思っていた私が、道具ではなく一人の人間として、明日を求めていい、ただ思うが侭に生きていいと、そう教えてくれた。

 だから、私は人としての明日を求めて生きた。自分だけのために生きていいのだと、そう教えてくれた彼のように、自分の生きたいように生きていたい、そのための努力なら何でもした。

 自身の役目を果たして、いつかきっと自分の生を、胸を張って生きていられるように――


 その結果がこれなのだろうか?


 眼前に迫る狼型フリーカーの牙を見つめてそう思った。

 世界に希望はなくて、最悪を越えるには自分がその最悪を越える力を持つしかない。それができない者はただ、蹂躙されるだけ。

 世界は酷く醜い。

 人並みの幸せを願うことすら、許されないなんて……

 きっと世界は、絶望に満ちていて、救いなんてない。

 ならいっそ、最初から生まれて――

 「クレアッ!!!」

 自身の生への絶望を吐露しようとしたその瞬間、自身の名を呼ぶ声が聞こえた。

 妙に頭に響く声、その声の主を私は知っていた。

 どうしてだろうか? なぜ彼がここに来てしまったとか、意味がないなんて思わなかった。

 私はただ純粋に――


 「ごめんなさい」


 謝っていた。

 それは彼に言ってしまった言葉に対してか、立場を逆転させてしまったことなのか、定かではないが、とにかく言わなけれないけないと、そう思った。

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