第十七話 異常者

 自己解析を終え、叢真は自身の根本の目的を理解した。

 俯きになっていた叢真は前を向き、決死を決めた表情で目の前のルジュに言った。

 「ルジュ、退いてくれ」

 「無駄死にしたいの?」

 結果を理解できないのかと、呆れるように口にする。

 「理由がある」

 「死ぬのに?」

 「前に進むのに、だ」

 「アンタ馬鹿?」

 何も理解できていない愚者を見るような目で叢真をの事を見た。

 「それでいい。俺は、馬鹿と言われようと、無意味と言われようと、彼女の元へ行きたい」

 「無力なアンタが行ってどうなるの?」

 「例え無力で役立たずでも、構わない。俺はただ、彼女に会って理由が欲しいだけだ」

 既に得た回答を叢真は口にした。

 「アンタ、クレアに惚れてるの?」

 「……いや、それは多分……違うと思う」

 「歯切れが悪いわね」

 「まあ、とりあえずは行って考える。今はただ、心の赴くままに行動するだけだ――」

 そう言って叢真は彼女の横を通り過ぎ、焔が囲う街を駆け抜けて火の発生源、竜の元へ走って行った。

 「アレ、馬鹿過ぎない?」

 「そうですか?」

 走り去る叢真を見てルジュと、物陰に隠れていたミサリがそう言った。

 「ミサリ、アンタこの結果が見えていたの?」

 「いえ、全然」

 「その割には物知り顔なんだけど?」

 不満そうにそういう彼女に、微笑を浮かべ答える。

 「私はをよく知っていますからね。といっても、彼の場合、根本はただの善人で外的要因でおかしくなってしまった……という感じでしょうか?」

 「何で疑問形なのよ」

 「別に私は彼について、深く知っているわけじゃありませんからね。推測と想像が大半を占めています」

 何となく理解ができるという感じであり、それ以上は知らないと述べた。

 「誰かのために自身を懸ける。自己犠牲精神――いえ、それは違うでしょうか」

 「?」

 「彼は自己犠牲なのではなく。きっと、自己投影なのでしょう。大切なモノが多いというよりは、大切なモノが少ない代わりに、大切なモノが大きくなり過ぎた――それが一番なのでしょう」

 「ミサリ、アンタって無意味に意味深なこと言ってるでしょ?」

 「さあ、どうでしょう?」

 包容力のある笑みを浮かべるミサリに、ルジュはムッとした顔をした。肝心なところは語らず、はぐらかすような言葉選びにむず痒さを感じたのだろう。

 「彼はきっと、大きな事を成すでしょう。でも、その代り――大きなモノを失うことになる」

 「……それってどういう――」

 「さて、ルジュさん。あなたは行かなくていいのでしょうか。あなたはクレアさんのライバルなのでしょう? 話に聞くと、竜討伐で勝負をしているそうじゃないですか」

 「あ! そうだったっ!」

 いま思い出したようにそう叫んだ。

 「ミサリ、私も先に行くわっ! 初勝利、してやるわ!!」

 「死なないくらいに、頑張ってください」

 ルジュは叢真同様にクレアを追いかけるように走っていった。

 「まったく、最近の子は元気ですね……さて、ごっ、主様のために私も頑張らせてもらいましょう。叢真くん、彼がどのような末路を迎えるか、その結果に幸福が訪れることを祈っていますよ。ね、主様」

 誰かに想いを馳せるように、恍惚とした表情でそう呟くのだった。

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