第十五話 竜伐隊
心が少し沈んだ状態で俺は彼女達が目指していた場所に到着した。
「ここは……」
火が囲う街の中、大きなテントが張られ、様々な器材が置かれた広場のような場所へ着いた。見るからに急造された仮拠点という感じだった。
テントの中やそこにいる人間たちは大量の銃器や刃物、用途の一切わからない物を運んでいた。
その場にいる人物は人種や背格好含め様々だった。修道服を着ている教会の人間から、西洋の貴族を思わせる服装の人間たちなど、千差万別だ。
その光景だけでこの場が、一般常識とはかけ離れた空間なのだと理解できる。この場は、彼らは、クレアやルジュのように超常に生きる人間なのだろう。
そして、その場にいる人間たちの表情から、現在の状況がどれだけ逼迫したものなのかがすぐにわかる。それほどまで、全員が全員、緊張した表情をしていた。
「叢真、ここは〝落ちた星〟から別たれた存在、ターズの一角、イグナイスを殲滅する為に仮設された拠点。彼らはイグナイスを殲滅するために、
「竜、伐隊……」
聞き慣れない単語や組織名に少し戸惑った。
正直、こんな状況でもなければ、素直に信じられないようなことだ。でも、フリーカーやクレアの魔術を見ているため、この現実を信じざる得ない。
「平民~、ちょっとこっち来なさい」
そんな声が聞こえ顔を向けると、テントから体半分を出したルジュが手招きをしていた。
俺はそんな彼女にものすごく嫌そうな顔を向けた。
「なっ! 平民のくせに、役立たずのくせに、アンタなんかにそんな顔される言われないわよっ!」
「…………」
「無視するなっ!」
ギャーギャーうるさいツインピンクを見て、完全にクレアの気持ちを理解した。確かにこれはもの凄く腹が立つ、あんなにもふてぶてしい人間っているんだな、と思った。
「気持ちはわかるけど、中の人には会ってあげて。中の人は真面だから」
「わかった」
クレアにそう言われ、俺は仕方なくルジュのいるテントの方へ向かった。
「叢真ちゃん……?」
不意に、俺の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。
どこかで聞いたことがあるその声に驚き、すぐさま後ろ振り向いた。しかし、そこには突如として俺が振り返ったことに驚くクレアしかいなかった。
「どうしたんだい? もしかして寂し――」
「何でもない」
意地の悪そうな表情で発言しようとする彼女の言葉を遮ってそう言った。
聞こえた声を気のせいだと振り払い、テントを潜って中に入った。すると、そこには金髪ロングヘアー、透き通るような黄色の瞳をした妙に
「逆刃大叢真くん、でよかったかしら?」
「え、ええ」
太陽のような眩しい笑みでそう問いかけられ、反射的に顔を逸らしてしまった。そんな様子に彼女は微笑を浮かべていた。
「私はこの星十字団、代表役、そして、戦時指揮官兼司令官をやっている者です。名前は、ミサリ・フォンズ・アルマーク、気軽にミサリと呼んでくださいね」
「わかりました。よろしくお願いします、ミサリさん」
「よろしくね、叢真くん」
そう言うと彼女は金髪を靡かせながら右手を差し出し、少し戸惑った後、俺はその手を掴んで握手を交わした。
「じゃあ、早速だけど、君の目的はなに?」
「目的、ですか?」
「ええ、君も知っての通り、この場は非常に危険よ。特に君みたいな一般人がいていい場所じゃない、大した理由がないなら正直、この場から引いてほしいと思ってる」
「…………」
それは最もな意見だった。後ろで妙に静かにしているルジュもうんうんと頷いていた。
この場が危険なことは重々承知している。フリーカーの件に関しても、話に聞く竜のことも、俺がいたところで何の意味もないだろう。それどころか、周囲に迷惑を掛けるだけになる。
「少し、考えさせてもらえますか?」
「ええ、いいわ。あまり長い時間は待っていられないけど、少しの猶予はあるわ。しっかり考えて答えをだしてください」
「……はい」
テントから出ると、近場に腰かけられそうなものがあり、そこに腰を落として一人思案した。
無意味、無駄、不要、余計、無用、邪魔……
ここにいる理由がわからない。意味も意義もない、ここにあるのは死の危険だけ、無意味なことにもほどがある。目的も理由もないのに、この場に留まる必要がない。
彼女は、どんな風に思っているだろう……?
ふと、クレアの姿が頭を過った。
現在、こんな無意味なことを俺がしたいと思った理由。俺は周囲を見渡して彼女を探した。しかし、見渡す限りでは発見できなかった。
俺はその場から立ち上がり、周囲の人間に彼女の居場所を聞くことにした。
「そこの二人、悪いんだけど、少しいいか?」
「なんでしょうか?」
「なんだ?」
声を掛けた二人は巫女服の少女と大太刀を持った制服の少女だった。
「君ら、クレアって子の居場所知らない?」
「クレアさんですか?」
「ああ」
「彼女なら竜の元へ向かった」
「っ!」
太刀の少女がそういい、俺は驚愕の表情をした。そして、彼女の向かったであろう
「ちょ、お前――」
「ありがと二人とも、今度、会ったらまたお礼はする」
そう言葉を言い残し、炎の先へ走った。
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