第十四話 足りない力
ツインピンクの挑発に乗ったクレアは竜討伐の速さ勝負をすることになった。
事情を詳しく知らない俺であるが、竜という存在、絶対そんな下らない勝負に使っていいものじゃない。というか、話を聞く限り、勝負するような余裕があるとは思えない。
「今更だけど、お前なんて名前なんだ?」
「何、アンタ……ナンパ?」
「は?」
名前を尋ねただけなのにも関わらず、このツインピンクはあろうことかそんな馬鹿なことを言い出した。
「まあ、仕方ないわよね。こんなに完璧な上にこんなに素敵で可愛いもの、アンタみたいな平民がお近づきになりたいと思うのも仕方ない。うん、仕方ないっ!」
「彼女はルジュ・アールマース・アルネビア。一様、魔術師」
「あ! 勝手に私の自己紹介取るなっ! ってか、一様って何よ! 一様って!」
うるさいツインピンク、もといルジュ。クレアが嫌がっていた意味が、この数分のやり取りでよく分かった。
人の話を聞かない。自慢癖がある。異常なほどの曲解。あおり癖、等々、上げればキリがない。正直言って、もう既に俺は彼女のことが若干嫌いだ。
「クレア、君も大分変人な部類だと思うけど、あれはそれ以上だな」
「そうね……って、おいおい。私は変人じゃない」
「ふぐっ!」
冗談交じりの言った言葉は
妙に深々と刺さった肘の痛みが残る中、燃え盛る街を駆け抜ける。
「危ない、叢真!」
「っ――!」
不意に意識を逸らした瞬間、クレアに襟を掴まれ飛ばされる。
転がる俺は何とか立ち上がると、さっきまで俺が立っていた地面が大きく削れていた。そして、周囲の炎の中から燃えるフリーカーが複数体現れた。
「
高速で詠唱を済ませると、彼女を囲うように周囲に形成された光球が、フリーカー達を削って行く。光球は直線上に飛んでいき、建物を削る。そんな中、一際大きなフリーカーが現れ、光球を二発砕いた。
その様子を見た彼女は腕を振るう。すると、腕に走った回路のような線が強く発光を始め、光球の弾道が変化し、巨大なフリーカーに向って正確に飛んで行った。
「
指を鳴らすと同時、巨大なフリーカーへ集積した光球は弾け飛び、フリーカーの肉体を全て削り飛ばした。
「クレ――」
「叢真、頭下げて」
その言葉を聞いて頭を下げると、彼女は銃を撃つように人差し指を俺の背後のモノへ向けた。
「
そう言うと指先に展開された陣から小さな光球が発生、銃弾が如し速度で背後にいた何かを貫いた。そっと後ろを振り返ると、頭部を撃ち抜かれたフリーカーの死体が転がっていた。
戦闘が終了して俺は立ち上がった。
「君、大丈夫だった?」
「ああ、なんとか。助かった」
「ねえ……平民、アンタ何がしたいの?」
クレアに感謝を述べていると、後ろから心底不思議そうな声でそう言ったのが聞こえた。
「それは――」
「そのままの意味よ。なにがしたいの? アンタ、さっきから足手まといにしかなってないって自覚ある? ここは危険な場所なんだけど、理解してるのかしら?」
「…………」
「クレアが連れてるからそれなりの実力者かと思ったら、ただの一般人じゃない。多少体力には自信がありそうだけど、その程度でここから先に現れる存在を前に何ができるの? はっきり言うけど、邪魔。無駄死にしたくないなら、逃げた方がいいわよ」
言葉が出ない。その通りだった、彼女の言うことは何一つ間違っていない。
今の俺はただ悪戯に
「ねえ、クレア。なんであんなの連れてるの? この平民、何か役に立つの?」
俯いて言葉を返せないでいると、そんな質問が聞こえ俺は回答者の方へ目線を向けていた。
「別に私は、彼を役に立たせるつもりで連れてきたわけじゃない」
「ふ~ん、そっか……」
やっぱり、彼女は最初から俺に対して何の期待も抱いていなかったようだ。
別に何か期待されたいとは思ってない、俺はただ感情の、思いの赴くままにここへ来ただけだ――最初から、目的なんかなかったんだ……
下を向く逆刃大叢真と前を向くクレア・ファーミス・アーゼンベルグであった。
下を向こうが、前を向こうが――因果は既に廻り始めている。
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