第十三話 ライヴァル
突如として現れたピンク髪のツインテール。
彼女はこの緊迫した状況を悠々と粉々に砕き、知人であろうクレアと初対面の俺にめんどくさいのが来た、と思わせていた。
「ルジュ、何の用」
「そんなの決まってるでしょ?」
煽るような仕草でそう言うと、ツインピンクは高らかに宣言するように言った。
「私がこんな辺境の島国に来たのは、竜退治なんて目的のためじゃないわ! あなたっ! クレア・ファーミス・アーゼンベルグ、私のライバルを打ち倒しに来たのよっ!!」
ふふ~ん、と満足げな表情のツインピンクを見て、クレアは――
「叢真、先を急ぎましょ」
「お、おい……」
クレアはツインピンクの言葉を思いっ切り無視して、彼女の横を俺の手を引きながら通った。
背後の少女に顔を向けると、あまりの出来事に完全停止、目をパチパチと開いて閉じてを繰り返し、目の前の現実を受け入れられずにいた。
「クレア、あれいいのか?」
「いいんじゃない、放っておけば」
あまりにも淡泊な俺の手を引く少女。
「知り合いじゃないのか?」
「知人ではあるけど、それだけ。大して交流があるわけじゃないけど、向こう側が勝手に付き纏って来る。正直、迷惑してる」
「でも、一様はその竜を倒すために来てくれたんじゃないのか?」
「そうかしら? さっき当人が、竜退治には来てないって言ってなかった?」
「あれは言葉のあや的なものだと思うけど……」
ビックリするぐらいツインピンクに興味を示さないクレア。
正直な所、俺自身も先程の彼女の態度を見て面倒な人物という印象がついて、出来れば関わりたくないと思っていたので、ある種の好都合ではあった。
「わかったわ、クレア! じゃあこうしましょっ!」
と、そんなことを考えていると、停止していたツインピンクは再び活動を開始して、先のやり取りが嘘のように提案を持ち掛けてきた。
「私とあなたで、どちらが先に竜を殲滅できるかの勝負をしましょ」
「――――」
「クレア?」
「――――」
「ねえ、クレア!」
「――――」
クレアはツインピンクの呼び掛けを完全に無視して、目的の場所へ向かって走り続ける。
「クレア、反応くらいは……」
「…………」
俺がそう声を掛けるが、彼女の関連の話は完全にシャットアウトされてしまった。
それほどツインピンクのことが嫌いなのか、それとも集中力を乱されるのが嫌なのか……
そう思案してみたが、普通に前者なのだと思った。
「ねえ、クレア。勝負、勝負しましょっ!」
「――――」
「クレア! 話くらい聞いてよ!」
「――――」
やはり無視。断固として無視。
「おーい、クレア。段々可哀そうになってきたから、話くらいは……」
「…………」
「可哀そうなんかじゃないっ! てか、アンタ誰? ねえ、クレア、その男なに?」
「――――」
「無視するなっ!」
悲しいほど、無視を繰り返す彼女に、少し泣きそうな表情をするツインピンクだった。
そんな中、ツインピンクがむぅっと顔をしかめっ面にした後、何かを思いついたような表情をしたと思ったら、クレアを嘲笑うように微笑をこぼして言った。
「クレア、もしかして、私と勝負するのが怖いの?」
「――――」
「天才魔術師とか言われる癖に、私からの勝負に逃げるの~?」
「っ――」
ツインピンクのしょうもない挑発。クレアのタイプ的にその程度の挑発に乗る筈が無いと思ったのだが、彼女、思ったよりその挑発が効いており、今まで一切反応していなかったツインピンクの言葉に少し反応を見せた。
「まあ、最強大天才の魔術師である私と勝負するのが怖いのは仕方ないけど、逃げるだけなんてダッサ~ぃ」
「――――」
ピシっと、クレアの頭に青筋が立ち、顔に影が入る。明らかに怒っていた。
ツインピンクも彼女の怒りを感じ取ったのか、少し怯えるような反応を見せたが、すぐさまいつも通りの傲慢な態度に戻り、追い打ちを掛けるように言葉を言い放つ。
「プププ、周囲にもてはやされるだけで実力が伴っていないと、そんな側だけ大切にしちゃう人間に成っちゃうなんて、かわいそ~。それに比べて私は完璧超人で側も内も最高で、ほっんと人生勝ち組~」
「私に――」
「ん?」
暗い影を落とすクレアが突如、言葉を漏らした。
「私に、200戦中、0勝200敗の見張りお嬢様がよく、そんな調子良いこと言えること」
「は?」
クレアの暗い影を落とした笑みと憤怒の怒りを宿したツインピンクの威圧がぶつかり合う。
「そんなに勝負したいならいいでしょう。勝負しましょうか」
「ええ、いいわよ」
「スクラップに――」
「ギタギタに――」
「してあげましょう!」
「してあげる!」
バチバチと火花が飛び交う二人の間に何故か立たされる俺。クレアの地雷をキレイに踏み抜いたツインピンク、両方とも目的を完全に忘れている。
「二人とも、今は争っている場合じゃ――」
「叢真、君は黙っていて!」「平民、アンタは黙っていなさい!」
「……はい」
二人の圧に押し負けた俺は肩身を狭くしてそう言った。
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