第十二話 未開の地

 燃え盛る街を二人で駆ける中、クレアは瓦礫から這い出る怪物を逐一撃破していた。

 「なあ、あの怪物は一体何なんだ?」

 走りながらそう問いかけた。

 「あれはフリーカー、竜から別れた殻が独自の存在を獲得した存在」

 「竜から別れた殻?」

 「ええ、あれは今私達が追っている存在、竜から別れて生まれた魔獣。まあ、フリーカーは個体によっては伝説種、あるいは幻想種に該当する生命体になりかねないけど」

 聞き慣れない単語を複数言われ頭が混乱していると、彼女は簡潔にまとめて言った。

 「用は、竜の鱗が命を持って怪物になった存在ってこと」

 「なるほど……ところで竜って何?」

 「…………」

 こちらの疑問にクレアはなんとも言えない表情をしていた。

 「いや、創作の竜は知ってる。ただ、クレアの言う竜は実在する存在なんだろ?」

 「……なるほど。君は本当に一般人だったんだね。いや、初対面の時から薄々気づいてはいたけど……叢真、これから接敵する竜というのは、〝星の内部機関、その複製体〟と呼ばれる存在」

 「星の内部機関?」

 「ええ、星には幾つか機能、機関が存在しているのだけど、竜は抑制機能の一つ〝龍〟の複製体。星の内部を疑似的に司る存在、存在自体が奇跡である模造品、在来生命体の大半は竜に遠く及ばないほどの差がある」

 驚きの事実に驚愕する中、ふとある疑問が過った。

 「抑制機関の割に、随分と地上を傷つけるんだな」

 周囲の燃え盛る街を見てそう言葉を口にした。彼女の話では竜というのは星を守る存在だ、その割にこうも地表を荒らすのは話と少し食い違っているように感じた。

 「だって――今回出現した竜はもの」

 「この星のじゃない?」

 その声を漏らすとクレアは静かに頷いた。

 「君、星災は知っているでしょ?」

 「ああ、あれが何か関係――……!?」

 ふと、回答が降りてくる。

 あの日、星災が起きた五年前、俺は確かに見た。の姿を――

 「そう……なのか?」

 「君の思っている通り、五年前、この星にはもう一つの星が落ちて来た。今この現状を作っているのは、その星の残骸から生まれたモノ

 「…………」

 「最悪の竜、在来生命体が死滅するまで止まらない。地球が機能を発揮するまで、この星は未曾有みぞうの大厄災に見舞われることになる」

 フラッシュバックする五年前の光景、これからその竜が野放しになれば、あれ以上のことが起きうるというその現状に心が暗く沈んだ。

 「……その、機能ていうのはいつ動くんだ」

 「さあ」

 「さあって……」

 彼女は事も無げにそう言った。そして、真剣な表情で淡々と事実を述べる。

 「地球にとって在来する生命に大した価値はないの。ただ自身の皮膚で生存しているだけ、それだけの存在でしかない。繁栄しようが滅亡しようがどうでもいい。所詮、星規模で見れば私達はそんなモノでしかない」

 「じゃあ……」

 暗い気分で言葉をこぼす。しかし、彼女はそんな暗い気分を吹き飛ばすように、明るく宣言した。

 「だから、代わりに私達がやるの。私達が竜を殲滅する分には何の問題もない。もちろん、簡単にどうにかできる存在ではないけど、それなりの準備はこちら側もしているからね」

 「……達って、仲間の魔術師がいるのか?」

 少し冗談っぽくそう言ってみると、彼女はその言葉を否定せずに言った。

 「仲間っていうと語弊を招くけど、一様はその認識で構わない。でも――、ではないかな」

 「魔術師だけじゃない? ……もしかして、超能力者とか、霊能力者とかでもいるのか?」

 「間違いではないかな」

 「間違いじゃないのかよ!?」

 再び冗談で言ったつもりの言葉を肯定され、驚く事になった。

 「ええ、いま君が上げた超能力者や霊能力者、それに近い者あるいはそれに類する者はいる」

 「…………」

 目の前の魔術師だけでも大分現実感リアリティが薄いのにも関わらず、超能力者だの霊能力者などが本当にいるという事実、あまりの驚愕振りに声が出なかった。

 「まあ、それに類する者の根本は大体同じ。〝オリジン〟や〝ワン〟、あるいは、根本は同じでも〝宿すことわりが異質な存在〟とかの完全な特異能力者はあんまりいないかな。私の人生上では、四人しかあったことがない」

 「四人もいるのか……」

 「その内の一人は君だけどね」

 「え、俺?」

 予想外の回答に情けない声が漏れた。

 「ええ、だって君の持ってるその力、魔術はおろか、三源力のたぐいで発生したモノじゃないでしょ? どちらかといえば、話に聞く十七裁徒じゅうななさばとの〝戒因かいいんくさび〟みたいな特異点のようなものじゃない」

 「そう、なのか? 悪いけど、俺自身この力の所在については全然知らないんだ。だから、あんまり詳しいことは……あれ? ちょっと待った」

 「ん?」

 燃える街を掛ける中、ふと浮かんだ疑問に足を止めて反応した。

 「クレア、なんでお前は、俺にって知ってるんだ? 俺はお前に力を見せていない」

 「ああ、それはさっきの怪物の死体から推測させてもらった。私は推理小説が好きで、状況から物事を探るのが得意なんだ。それと魔術での解析の結果、明らかにおかしいモノが混じっていて、何かしらの能力を持っていることだけは分かった」

 「そう、か……」

 彼女の言い分に納得したようにそう呟いた。

 「詳細はわからないし、君の力の所在について私の魔術では解析できなかった。君、どこか由緒正しい魔術師の家系だとか、家が特殊だとかある?」

 「いや、家は普通の家系だ。クレアの言う魔術とかとは一切関係はないと思う。両親も一般人だ、まあ、もういないけど……」

 「……そう」

 両親の話になって少ししんみりという雰囲気になった。と、そんな中、背後から猛ダッシュしてくる謎の影が迫ってきているのに気がついた。

 「クレア、何か来てる」

 「ええ、知っている」

 「どうする」

 「敵なら殲滅……なんだけど、どうやら〝敵〟ではないみたい。いえ、ある種〝敵〟ではあることは間違いないのだけど――」

 彼女がそう言ったその瞬間、その影は俺たちを通り越して目の前に迫っていた怪物を吹き飛ばして、俺たちの前に立った。

 「やっと見つけたわよっ! クレア! 私を、このルジュ様を置いて行くとはいい度胸ね。流石は私のライバルね」

 あまり大きくはない胸を張って、高らかにそう言うのは、長いピンク髪をツインテールにした態度の大きな少女だった。

 彼女の様子にクレアは呆れたような表情で見ていた。

 誰……?

 純粋に正体不明のツインピンク(ピンクのツインテール)は、この緊迫した空気感を容易く壊したのだった。

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