第十一話 魔の術を持つ者

  にこやかに魔術師と名乗った少女、クレア。俺は疑いの目を向けていた。

 「魔術師、って……からかってるのか?」

 「いやいや、大真面目だよ」

 「…………」

 微笑は浮かべているが、確かに本気の表情をしている彼女を見て、再び頭がクルクル回った。

 先程見た、この世のモノとは思えない光景。そして、怪物がいるというこの事実がある状態で、彼女が魔術師だと名乗っても正直なところ違和感が無い。元に不思議な光球を出していた。

 考えれど考えれど、彼女が魔術師だという理由がどんどん溢れた。

 現実味はないが、その点に関して俺は既に一般とは違う力を持っているので対して抵抗感なく、彼女が魔術師かもしれないという現状を受け入れつつある。

 よって、一先ず――

 「わかった。君が魔術師であることは理解した」

 「そう、理解してもらえてよかった」

 そうニコッと笑みを見せる。その笑顔があまりにも可愛くて、不意に少し見惚れてしまったことは内緒にしてほしい。

 「それでアンタは一体――」

 気を取り直してクレアに事情を聞こうとした瞬間、彼女はスッとどこか他の方向を見て言った。

 「悪いけど、悠長に話している暇はないみたい」

 クレアの目線の先には、先程の怪物達が再びぞろぞろ現れていた。その様子に背筋がゾクリとした、まだあんな数がいるのかと恐怖した。

 しかし、そんな俺に対してクレアは余裕そうな表情でコツンコツンと靴を鳴らして、前に出た。

 「やっぱり、大本をどうにかしないと、ダメね」

 彼女は右手を前に伸ばした。

 「まあ、とりあえず――一掃しましょう。高密魔力弾バレッタ多重展開マルチセット

 詠唱と共に伸ばした右手から、回路の様な線が青緑色に発光を始めた。空中には陣が形成され、光球が発生した。光球は展開された陣が通る度に圧縮され、その大きさサイズを縮小させていく。

 バチバチと電流を走らせ、膨大なエネルギーが圧縮されているのだと分かる。

 「少し付け足し。付与レイズ跳躍バウンス――」

 再び右手の回路ラインが強く発光を始め、空中に追加で陣が形成され、光球を通った。

 「固定解除ロックオフ全弾発射オールファイア

 そのトリガーと共に、展開された陣が光球の後ろに回り回転し、弾くように光球を発射した。

 光球は弾丸のような速さで怪物たちへ飛んでいき、その体を容易く抉り、絶命させる。そして、光球は射線上に何もないのにも関わらず、突如として弾かれ、加速と同時に方向を大幅に変更した。

 よく見ると、弾かれた瞬間、陣が一枚割れ、方向を変化させたようだ。

 怪物達は無残に殺される。圧倒的な力の前に成す術なく、ただ蹂躙されるばかりだった。

 「さて、とりあえずの方は着いたみたいね」

 異常なほど圧倒的な光景。魔術でも使ってなければ成せないような在りえない光景、認めざる得ない――彼女は本当に魔術師なのだろう。

 「一段落着いたところで、君……いや、叢真君だったかな。ここから先は叢真君のような一般人の立ち入って領域じゃない、避難所に逃げる向かうことをお勧めするけど?」

 「…………」

 その言葉を聞いて俺は確かにそうだと思った。自然と状況を理解しようと行動していたが、所詮俺はただの一般人、どうこうしようが自体は変わらない。それどころか、事態を混乱させる要因になりかねない。

 でも、俺は――

 色んな思いが交差する中、一つの回答を口にする。

 「なあ、アンタについていくのは駄目か?」

 「……それはどうして? 見て分かる通り、ここから先は危険な場所になる。態々行く必要なんて――」

 彼女の言葉を遮るように俺は言った。

 「ああ、それはそうなんだけど……俺は君に、クレアについて行きたいと、思ってる……?」

 自分でも理解できない行動原理、彼女についていくことが理由なのか、彼女についていき理由を見つけることが理由なのか……あるいは両方か。

 何にせよ、理解できないのであれば考える必要はない。

 「疑問形にされても、私にはわからないのだけど?」

 「すまない。でもとにかく、俺はクレアについて行きたい」

 「…………」

 本心をぶつけるとクレアは気難しそうな表情で俺のことをジッと見つめ、何か決心ついたような表情をした。

 「命の保証はないけど、いいの?」

 「ああ、多少の危険は承知してる」

 「……わかったわ。行きましょうか」

 「……ああ」

 何だか不思議な気持ちだった。こんな感情を抱くの久しぶりだ、きっと昔、誰かに同じような感情を抱いていた。あるいは、今も抱いているのかもしれない。

 ただそのことに気づけないでいるだけ……それだけだ。

 彼女が走り始めると俺もその後をついて行った。きっと、この選択が――全てを変えることになるのだろう。

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