第七話 足音はただ、事実を

 焔の中を駆けていた俺はついに命里たちを見つけた。

 見つけた二人は涙を流していた、それで何となく事情は察した。

 「――命里! お爺さんとお婆さんは!?」

 その声を聞いた命里と美波ちゃんは泣きそうな顔でこちらへ走ってきた。

 「叢真君、二人は……」

 「おじいちゃんとおばあちゃんは……」

 何らかの問題が発生したのだろうとは予想していたが、二人ではどうしようもないことが起きていたようだ。

 「二人とも、お爺さんとお婆さんの場所に案内してくれ――何とかしてみる」

 「「!」」

 俺の言葉に驚いたような表情をする二人。でも命里の方はどこか、期待していた言葉が来たような救いが会ったような、そんな奇跡を請うような表情をしていた。

 その後、無言で頷いた命里のついていくと、家の瓦礫に押しつぶされている老夫婦の姿を見つけた。

 なるほど、そのせいで逃げ遅れたのか。

 家の瓦礫は女の子や女子高校生が持ち上げられるレベルのものではない、それどころか大の大人ですら持ち上がるか怪しいだろう。

 そして、それを見て老夫婦の身体が本当に大丈夫かという疑問が浮かんだが、どうやら支えのようなものが間にあるようだ。見た目ほど、二人に負荷は掛かっていない。

 ふぅ――、無茶するしかないか。

 どちらにせよ、時間がないことは確かだ。

 「命里、美波ちゃん、少し離れてくれ」

 その言葉で二人は少し後方に下がる。そして、老夫婦はやってきた俺たちを見て酷く驚いたような表情をしていた。

 「君、昼間の」

 「はい」

 「儂らのことはいいだ、君は二人を連れて安全な場所に――」

 「大丈夫です。絶対に助けます」

 「「――――」」

 真剣な表情でそう言い切ると、二人は目を丸くして驚き、押し黙る。言葉を紡がぬ理由は、こちらの決意の強さ、絶対に助けるという心意気を理解してくれたからだろう。

 「ふぅ――」

 呼吸を整える。あまり時間がない故――速攻で終わらせる。

 「追加レイズ――肉体ボディⅡ決定セカンド・オン――固定完了ロード

 全身の筋肉が隆起する。体から無理やりエネルギーを捻出して力を振り絞っている。

 燃えるような暑さの中、俺は二人を押しつぶす瓦礫をがっしりと掴む。

 「追加レイズ――腕力フォースⅢ決定サード・オン――固定完了ロード

 追加強化をしたその瞬間、目一杯の力を籠めて瓦礫を持ち上げる。瓦礫はボロボロと崩れながら、上に上がっていく。その光景を驚愕の表情で見つめるお爺さんとお婆さん。

 痛ッ――

 瓦礫を持ち上げる最中、筋肉の繊維がブチブチと嫌な音とを立てて千切れる。

 限界以上のことを無理やり行っている代償。本来の力以上を無理やり他のところから引き出すというのは、こういうことなのだ。

 「早くッ!」

 あまりの激痛に思わず声を荒げて言った。

 お爺さんとお婆さんを押し潰していた瓦礫は既に俺が持ち上げている、そのため後は二人がその場から這い出るだけで済む。しかし、二人は目の前で起きたこと驚愕して動かなかった。

 だが、俺の声で冷静になった二人は即座に瓦礫の下から退いた。

 「うッ――限数解除カウント・オフ

 二人が退いたのを確認した俺は即座にカウントを解除し、バダンッと瓦礫を地面に落とした。すると、後方にいた美波ちゃんが立ち上がった二人の元へ駆けだした。

 「おじいちゃん~、おばあちゃん~」

 「「美波」」

 涙を流しながら二人に抱き着く美波ちゃん、二人は嬉しそうな表情でそんな美波の背中を摩った。

 よかった……

 三人の様子を見て微笑をこぼした。命里も俺と同様に安堵の表情を浮かべていた。

 「叢真お兄ちゃん、ありがと……ほんとにありがとう」

 涙声でそういう美波ちゃんに頭を下げるお爺さんとお婆さん、俺は笑みを見せる。

 少しして、時間がないことを思い出した俺は三人に声を掛けた。

 「ゆっくりと話をしたいところですけど、ここは危険です、一旦避難所に――」

 そう声を出した瞬間、ふらりと体が揺れその場に脚を着いた。

 「叢真君!」

 「お兄ちゃん!」

 二人が地面に足を着けた俺に近寄る。

 「大丈夫かね」

 お爺さんとお婆さんも心配そうな表情でこっちを見ていた。

 「だ、大丈夫です。少し眩暈がしただけですから」

 俺は右手で頭を抑えながらそう言った。

 今日は連続してカウントを使用した。ただでさえ体に負担を掛ける力なのに重複使用を今日だけで二度使った、全身に掛かった負荷は相当だ、今になって表面的に影響が現れただけ。

 ん? なんだ、この音。

 少しして眩暈が治まり始めた頃、不意に変な気がした。

 まるでかなりの重量を誇るものが、のそりのそりと歩いているような、そんな嫌な音がした。俺はゆっくりと前方に顔を向けた。

 眩暈と同時に少しぼやけた視界。いまわかるのは、目の前にお爺さんとお婆さん、それと――得体の知れない何か。

 悪寒が走る。何か途轍もなく悪いことが起きている、そんな予感がした。

 ゆっくりと視界が元へ戻って行く、その時、俺は見てはいけないものを視た――

 「君、本当にだいじょ――」

 「…………え?」

 目の前にいたお爺さんとお婆さんの上半身が消えた。否、食べられた。大きな図体を持った正体不明の生物に。

 な、なにが……起こった?

 理解できない。顔に着いたお爺さんとお婆さんの血が、妙に気持ち悪い。

 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……本当に現実、か?

 夢を見ているような気分だった。

 だってこれは――あまりにも現実味がないのだから。

 「ヴァァアアア!!!」

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