第五話 焔、囲う街


 スマホのアラームとメールを見た俺は即座に避難所へ向かった。荷物はできるだけ少なく、最低限必要な物をだけを持って家を出た。

 家を出ると大量の人が避難所に向って走っている光景を目にした。

 「これじゃあ、あの日と――」

 言いかけて言葉に詰まる。そう、この光景はあの日、星災と同じ光景だった。

 あの日は嵐だったが、今日はただ風が強いだけの日――でも、火災にとってそれは最大の厄日だ、強風は火をより強く炎上させる。

 人はただ逃げることしかできず、指定された避難所に走って逃げ惑う。最悪の光景だ。

 「クソッ!」

 その光景を前に俺は苛立ちを隠せず、強く柱を殴りつける。

 落ち着け、落ち着け、落ち着け――!

 心に落ち着けと言い聞かせる。今は怒りより先に自身の命を守ることが先決だ、そう思い心を落ち着かせているところに爆弾が投下される。

 「おい、さっき、あっちで女の子と女子高校生を見たけど大丈夫か?」

 「あ? 大丈夫だろ、こんな状況で火の強い方へ向かう奴なんていねぇよ」

 「そりゃそうだが……その二人、家族が家に取り残されてるからとか言って、火の強い方に向ったんだよ」

 「なんだって!?」

 避難所へ向かう男性二人のそんな会話が聞こえた。そして――

 「おい、君! そっちは危険だ、止めなさい!」

 「――――」

 俺は静止するそんな声を無視して、その二人がいると思われる火の強い場所へ走って行った――



 クソ、クソ、クソ! ……俺は何をやって。

 焔の中を駆ける最中、自身の行為に呆れて罵倒する。さっきの話の二人が、俺の知っている二人、命里と美波ちゃんである確証は一切ない。特徴は一致していたが、女の子と女子高校生なんていくらでもいる、二人の筈がない。でも――

 「あ゙――――」

 大きく声を上げる。決心を決めるため、心がブレないように固定する。一度決めた以上、もう引き返せない。それに仮に二人じゃなくても、逃げ遅れた人間がいるなら助けたい。

 心固めろッ! ズレるな、綻ぶなッ!

 後悔で判断を鈍らせない為、強く自身を奮い立たせる。咄嗟の判断に無駄が出ないように、覚悟と意識を固めた。

 さあ、前を向け――

 「向上アップ――限数設定カウント固定開始セット――指定エントリー肉体ボディⅠ決定ファーストオン――限数設定カウント固定完了ロード

 心を叩き上げたと同時、肉体の基本値アベレージを上昇させる。一秒でも速く、前に進むために体力のことは考えず、ただ前に走った。

 五感を鋭敏に研ぎ澄ませ、僅かな人の気配すら見逃すな。五感がまるで探知機センサーのように、人間を探知する。

 現在、半径三十mには人の気配はない。俺は探知機センサーに人間が引っかかるまで激しく燃え盛る焔の中を走り抜ける。

 ……おかしい――

 異変を感じた。俺の探知機センサーは常人レベルだが、それでもカウントで強化している、それなのに周囲に人どころか、生物の気配を感じない。ありえない――異常事態が起きている。

 だが、そんなことを気にしていられる余裕のない俺はその異常事態の中、それでも焔を越えて走った。

 …………見つけた!

 そしてついに焔の中かた人間の気配を感じた、それも四人だ。仮にあの二人ならば、お爺さんとお婆さんもいることになる。まだ、間に合う。

 俺は気配を感じた方へ向かって走った。

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