第74話

要塞化した家から追い出された鎧の人たちは、まるで手出しができなかった。

その手足は、普通より強いかな、くらいの力しか出せない。

張り巡らされた分厚い装甲を越えることができない。

鋼鉄製の壁は、背丈の倍くらい。隙間を探しても、そんなものどこにもない。


ウロウロと探して回ってたけど、一人が――家主が攻撃して炎を纏ってた人が、ふと気づいたようにその冥い火を近づけた。

素手でぺたりと触った途端、装甲が溶ける。

この世でもっとも熱い炎を前にすれば、鋼鉄の硬さも分が悪い。

もっとも、その速度は遅々としたもので、穴を開けるためには時間がかかる。今は「願い」の継ぎ足しもされてるから、対処も可能――


ただ炎を近づけただけなら、それで済んだ。


冥炎に彩られた顔が、ニヤリと笑った気がした。

数歩距離を取る、適切な遠さまで下がった後で、開いた胸元に手を突っ込み、血と炎を取り出し、振りかぶった。

手にはボールの代わりに、冥炎の塊があった。


――あかん。


思わず呟くと同時に、揺れと爆発音が家を襲った。


「なんだ!?」

――だめだ家主、これ、突破される!


破壊は分厚い装甲を削ってた。完全にじゃない。まだ穴までは空いてない。

円錐状の破壊跡を作成しただけで終わった。

けど、そんなの問題にもならなかった。

だって、他の鎧の人たちも、おお、という顔をした後、全員が手首を噛み千切った。


溢れでる竜の血と炎。

それを残った方の手でまとめ、同じように振りかぶった。


家としては悪夢のような光景。

銃の削りなんて、まったく問題にもならない。

総勢三十人以上による、一斉爆撃が開始された。




震度どれくらいかわからないけど、結構な横揺れだった。

立ってはいられるけど、断続的に連続してるし、爆音はするし、なによりも家が削られる。


爆撃による破壊が、通路を作成する。

多数の人型ドラゴンが殺到する。


「家、行け! だが注意しろよ!」

――了解!


英雄体とでも呼べる形で、家は飛ぶ。

とても上手く飛行ができた。前は割と苦手だったはずなのに、自然と行ける。


同時に家主が作られた階段を三段飛ばしに駆け上がり、魔術を構築する様子があった。

結界の準備じゃなかった。

屋上へと到着すると同時に、外側の壁を越えてくる冥炎を、遠投によって大きく弧を描いて落下しようとしていたのを次々に撃ち抜いた。

白と黒を混ぜ合わせた、奇妙な花火が夜空を彩る。


その向こうには、ドラゴンの姿があった。

山裾の合間に、まるでもう一つ山が増えたみたいな巨体で座している。

顎を地面につけてる様子は退屈そうで、こっちの騒ぎを他人事みたいに扱ってた。


ただ在るだけなのに、まだ夜で月明かりしかないのに、その姿はハッキリ見えた。

存在の濃さが、まるで違う。

生命力の塊が、そこにあった。


とりあえず今は、動かないでいてくれるだけでありがたい。

というかできればそのまま静々と後ろに向けて帰って欲しい。


家も外壁部分にまで到着した家はそう頷く。

開いた壁から入り込もうとしたのを、手にしたレイピアで数体をまとめて薙ぎ払った。

致命傷を受けた鎧たちは、その事実を否定しようと竜炎を纏うけど、同時に鎧も一緒に燃やした。


なんか撃破確定演出みたいな感じだけど、実際にはパワーアップだ。倒したんじゃなくて変身強制だ。

むしろ力強くなった動きで家へと迫る。


――く……!


回避し、距離を取りながらももう二体ばかりを倒したけど、とにかく数が多い、この炎の直撃はただでは済まないから、遠回りで攻撃する必要がある。

家に向けて何人もが迫り、残った人は家主との砲撃合戦を繰り広げてた。


ちょっと小さい鎧が家の足首をつかもうとするのを、ジャンプで回避。

そのまま宙で反撃の剣撃を送り込むけど、その刃をつかまれた。


肩口から抜けようとする一撃を鎧でも手でもなく、冥炎そのもので停止させられた。

その体の内側に生成された、炎の手で刃を握っていた。


一秒にも満たない停滞、けど、致命的すぎた。


――うあ、やば……


炎人が殺到し、家を確保しようとする。

剣を手放して飛行――だめだ、完全停止からの再加速が間に合わない。

被害を最小限にすべく、家主を真似て腕を掲げるけど、


「危険」


接触より前に、すさまじい魔力を伴った一撃が彼らを吹き飛ばした。

ただの素手なのに、そこに込められた力が強すぎて、ほとんど投げ飛ばしたようにも見えた。


――あ、デルタ。


前よりもっと無口になった最初の寮生が、片手を挙げて応えた。


――いくらデルタでも、これにさわったら不味いよ?

「問題、なし」


言って攻撃に移る。

簡単な動きで敵の鎧が簡単に吹き飛んでいた。

炎がそもそも接触しない、それだけの魔力の塊をぶん回していた。


理由は知らないけど長生きで、どんな攻撃を食らってもあっと今に回復する子だった。

それだけの戦闘経験があった。


英雄体――人間の最上を模倣した動きよりも、ずっと上手い。

一人だけなら危うかったけど、これならなんとかなる……!


家とデルタ、二人であっという間に鎧の群れを炎人の群れへと変えた。


「よし! 銃持ってる奴らは燃えてる方だけ狙え! 鎧を着てたら効かねえが――」


迫ろうとしていた炎人の、足首部分が吹き飛んだ。

たたらを踏んで体勢を立て直す頃には再生してるけど、また次の銃弾がその体に到着する。


「あの状態なら効果アリだ。どんな攻撃だろうが再生するって言うなら、それが追いつかないペースでブッ潰し続けろッ!」


あちこちから銃声が連続する。

家からわからない人が、銃を手にして撃ち続ける。


本来なら銃とかあんまり上手く動作しないし、けっこうな頻度で不発になるはずだけど、まるでそういう風に「願われた」みたいに万全だ。


家もデルタも、その銃撃を邪魔しない位置に移動しながら、どうにか逃れようとするのを叩く作業しかない。というか――


――これが当たり前にできる状況とか、すごく怖い……


目の前であっという間にボロ雑巾みたいになってる姿を見て、そう思ってしまった。

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