そこはもうシリコンバレーと言えないか?
「すごいよ、これ」
ヴィクトーと私は興奮している。ポグちゃんの数は変わらないのに、新しい土に変えてから魔力計の数値が10倍以上に増えているのだ。
トイプードルの教授に数値を報告すると、同じように喜んでくれた。農学部門と魔力研究部門で協力して研究を進めてくれるそうだ。
「今は、ポグーの生体が必要でしょう? でも、気象条件が厳しい地域でも使えるように、ポグーの力無しでも蓄電し続けられる方法の研究を進めているの」
そして、にっこり笑った。
「あなたが高等部を卒業するまでに解決しないと、あなたずっとミミズを捕りに通いそうだもの」
ヴィクトーも苦笑いしている。
「そんなにポグーが好きなら、家で飼えばいいじゃん」
「私も飼いたいんだけど、妹が激しく嫌がるの。怖いんですって」
「ああ、前にもそんなこと言ってたな。じゃあ、今度ポグーを入れ換える時は、好きなだけ見せてやるよ」
ここ数日、ヴィクトーはとても優しい。恐らく、アレン先輩の噂がヴィクトーの耳にも入っているのだろう。
アレン先輩が婚約した、という知らせを持ってきたのはアレシアだ。アレシアは舞踏会でアレン先輩と私の間にあったことを知らない。私がフォーラムのことで忙しくなったから剣術部を辞めたと思っている。
「でもこの婚約、評判悪いの。アレン先輩がお相手の家柄目当てで婚約したんじゃないかって」
婚約相手だという女の子はアレン先輩と同じ3年生だ。男子がいない伯爵家のご令嬢で、夫となる人に爵位を継がせるらしい。
婚約が公になると『私も特別に親しかったのに』という女子生徒が何人も現れた。中には婚約の口約束をしていた女の子もいたらしい。そして全ての女の子に共通するのが、家を継ぐ予定だったということ。
私はそれを聞いて納得した。先輩はやけに私の家の事に詳しかった。
(私の事も、そういう風に見ていたんだろうな)
自分でも驚くほど何も感じなかった。私だってアレン先輩の外見しか見ていなかったのだし同じようなものだ。浅見先輩とアレン先輩に憧れていた時の事を思い出すと、なんだか懐かしい。
「イリスはアレン先輩が婚約しちゃって残念だと思うけど、これからは一緒にロベール先輩を応援しましょうよ」
アレシアはその後、最近のロベール先輩がいかにカッコいいかを話し続けた。
◇
「ハロルド、嬉しい報告があるんです」
テオとの定期交信を、たまにのぞかせてもらっている。つながったと思ったとたん、テオが勢いよく話し出した。坊主頭を自分の手でぐりぐり撫でまわしている。とても興奮しているようだ。
「中継の仕組みと回路を欲しいという人が現れたんですよ!」
王都から馬車で10日ほどかかる距離に領地がある貴族からの依頼だった。王立学校に通う娘と、もっと頻繁に話がしたいのだそうだ。初等部に通う幼い女の子は、父と母が恋しくて仕方ないのに、両親は頻繁に領地を空けることが出来ない。領地で暮らす弟妹たちがまだいるからだ。
「お金ならいくらでも出すって言ってます」
ハロルドが嬉しそうに言う。
「裕福な人からは、遠慮なく頂こう」
今回は距離が長いので、中継点も多く作る必要がある。また、それだけ長い距離でも情報が欠けない程度の力を保って魔力を伝達させられるかも心配だ。
今回の挑戦も簡単ではなさそうだ。それでもハロルドとテオは嬉しそうに、課題の解決方法を話し合っていた。
「そうそう、石を組み合わせる回路を使って、面白い機能を考えている人も来たんですよ」
ハロルドとテオのシリコンバレーには、若者だけじゃなく人生経験を積んだ人も『実はこういう事を考えていた』と相談に来るそうだ。テオの工房を中心に、領内全体で魔力回路について活発に意見交換する空気が生まれ、途切れなく人が訪れることで、街に活気が生まれてきているそうだ。
ヴィクトーの父侯爵も、こういう夢を持った人たちへの支援を検討してくれているそうだ。自分だけでなく、他の貴族からも支援を募れるような仕組みを考えてくれているらしい。
こんなに忙しくなっても、ハロルドはフォーラムのことを忘れていない。今でも頻繁に本体の部屋にやってきて、新しい回路を試して改善を続けている。
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