どこの世界にもありそうなイザコザ

 魔道具の作成は順調に進んでいる。蓄電池チームの次の課題は、カメラ用の持ち運び可能な蓄電池だ。


「持ち運ぶ小さな箱に、ポグちゃん入れるの可哀そうだよね」


 ポグーを土に入れているのは、継続して糞をして欲しいからだ。一時的な持ち歩きのためなら、土と糞だけの小箱で良さそうだ。


 私とナカムラは、魔力計を見ながら土の量と糞の量を調整する。


「くっさ! ハセコ、香草取って。この量の糞を入れるなら香草増やさないとヤバいよ」


 私たちは映える被写体として食堂のメニューを考えている。納豆臭漂うカメラを持ち込むわけにはいかない。


 部屋の奥では、ハロルドとマノンが回路を組み立てている。出来上がった持ち運び充電池にカメラをつなげて、二人を撮影する。


「カシャ」


 シャッター音はハロルドにお願いして追加してもらった。この音が無いとカメラ感が無い。みんなで色々試した結果、紙を握り締める音をシャッター音にした。なので、ちょっと『クシャ』に近い『カシャ』だ。


「見てみてー!」


 カメラに映った二人を見せる。突起を手放していても写真が残っている。カメラが以前よりも1周り大きくなっているのは、撮った画像を保存する回路が組み込まれたからだ。


「小さい充電池につなげた状態でも、消えずに残っているね」


 ハロルドも満足そうだ。恐らく10枚くらいは保存できるとのこと。私たちは翌日のお昼休憩に料理を撮影することにした。



 食堂に来るのは久しぶりだ。イリスとして周りに馴染めるようになった今でも中庭でお弁当を食べているのは、ナカムラと気兼ねなくおしゃべり出来る時間が好きだからだと思う。ナカムラがどう思っているのかは、聞いたことがない。


「カメラ貸して!」


 マノンが嬉しそうに撮影したのは、具沢山のスープとパン。ハロルドはハンバーグを撮影した。ナカムラはお肉のソテー、私は魚料理。みんな自分のメニューをこだわりの角度で撮影する。


「何やってるの?」


 他の生徒たちも興味深そうに聞いてくる。私たちのチームはもう、他が真似出来ないような独創的な道を進んでいるので進捗を隠していない。リクエストに応えて目の前で写真を撮ってあげた。


「保存した写真を見るのは、ここでは出来ないけど、完成したらぜひ見てほしいな」


 ハロルドがみんなに説明した。このカメラでは最後に撮影したものしかガラス面には残っていない。保存したデータを表示する回路は別の魔道具になる。


 女の子たちが、神妙な顔でハロルドの話を聞いている。記憶が戻ってからのハロルドは、背が低いながらも、自信に満ちていて大人びた言動になったので、女の子たちからの人気が急上昇している。


 成果の確認を待ちきれない私たちは、その日の放課後に集まって撮影した画像を見てみる事にした。


「映ってるよ、完璧だよ!」


 カメラをデータ保存用の魔道具につなげ、更にその先につながる表示用の魔道具を覗く。そのガラス面にはマノンが撮影したスープが表示された。魔道具を操作すると、ハロルドのハンバーグ、ナカムラの肉料理、私の魚、と次々に表示された。


 最初に作ろうと決めた機能が5つ。


 文字情報をデータにする仕組み。

 写真を撮ってデータにする仕組み。

 受け取ったデータを保存する仕組み。

 データ同士を結び付ける仕組み。

 データを表示する仕組み。


 この全てが出来上がっているという。後は組み立てて、掲示板の仕組みが稼働するよう調整をする作業だけ、とマノンが言っていた。作業を任せて私は木箱と箸を持って立ち上がった。ナカムラも一緒に立ち上がる。


「ミミズでしょ? 俺も行くよ」


 ありがとう、と言いかけて友達に言われたことを思い出した。


「いい、一人で行く。ありがとね」


 そそくさと立ち去ろうとする私を見て、ナカムラは怪訝な顔をしたけど『分かった』と部品作りに戻った。


 実は昨日、剣術部の活動中に友達のアレシアに言われてしまったのだ。


「イリスって、最近ヴィクトーと仲良さそうだよね」

「魔道具の実習で同じチームだから、接点は多いかもしれないけど、どうかした?」


 アレシアが言いにくそうに顔を伏せた。でも思い直したようにまた顔を上げて口を開く。


「ヴィクトーが人気あるのは知ってる? 最近、婚約者もいなくなったから、近づきたいと思う女の子も多くて――そういう子たちから、良く言われてないというか」


 なるほど、そういうことか。ヴィクトーは見た目は王子様のようなイケメンだし身分も高い。上手く結婚出来たら侯爵夫人だ。となると、目の色を変えて接近する女の子も多いだろう。


(中身はナカムラなのに)


「心配してくれてありがとう。でも本当に魔道具の実習で同じチームというだけだから。優しいのね、アレシア大好き」

「きゃー、イリス。私はロベール先輩が好きなんだから、私を好きになっても無駄よ」


 いつものように、きゃあきゃあ笑ってくれる。


 ナカムラとのお昼休みは、私にとって大切な時間だ。これは譲れない。だから、それ以外での接触を出来るだけ控えようと思う。


(一緒にミミズ捕りに行けたら、楽しいんだけどな)


 こういうややこしさは、異世界でも元の世界でも、きっと変わらないのだと思う。

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