第34話

 ミーたんは発言に多少の食い違いがあったり、プライベートで兄とデートしていても愛してくれる客がいた。私生活での彼女はどうであれ、メイドとしての彼女に嘘が無かったからだ。


 その点なーのんは私生活にも嘘が無い。彼女が話せば真実を聞けて、彼女が動けば一生懸命な働き様を見れる。接した客が皆、口裏を合わせた様に良い子だと語る彼女だが、自身には人を惹きつけている自覚など更々無い。


爆「ぬぉ、ぽんれまんな混んでますな。――ああでんらいはん玄凪さん、ぬてらて抜け駆けばっぴん罰金ふお」


玄「あはは、すいません。あの事け、(咳払い)[小声)あの一件があったから誘うの躊躇っちゃったんです]」


 ミーたんの事件については爆郎も、彼等の隣りに座るメイドも、この店にいる人全員が知っていた。当然誰一人としてそれを話題にしようとは思っていない。


爆「――でんらいはん、えま今はメードたんっふよ。あ、とるていどりんとぅ特製ドリンクふらはい」


 彼等はこの週末もご主人様となった。気の弱い二人には、自分達が指名したメイドを差し置いて別のメイドを指名するなど出来ない芸当だった。


 大好きなメイドと触れ合った彼等は、何時に無く満たされない気持ちで店を後に。


玄「流石の爆郎さんもあのメイドちゃん達は初めてだったんですか? ――いやーいつもだったら豆知識とか教えてくれるじゃないですか」


 そういうのは辞めた――予想外の返答に玄凪は思わず言葉を詰まらせた。


 常日頃からメイド喫茶関連の情報を掻き集めてきた爆郎。初めは推しが喋っていた事柄のうち知らないものを調べているだけだったのが、プライベートな情報までを欲している自身に気付いた時には止まらなくなっていた。


 彼を知的欲求が駆り立てた。自分が、誰よりも早く、多く、正確に。


 そうして彼が得た情報は無二の代物となった。店に来る客の誰一人として同じ情報を話してはおらず、彼は一人とすれ違う毎に目の前でお宝の価値が跳ね上がっていく気分でいた。ただいつまでもショーケースに入れて自分だけが眺めていても、そのうち見飽きてしまうのが人の性というもの。


 やがて彼は手に入れた情報を他人に流し始めた。最初は本物だと言っても信じてくれない人ばかりだった彼の宝情報は、次第に客を呼び、物によっては金を払ってもらえるように。


 彼の本職からすれば端金もいいところだが、重要なのは金額ではなく金を払ってもらったという事実。金銭の支払いに相当する宝であると認められた様に思えた彼は、支払ってもらった回数を積み重ねる為に更なる宝を探し求めた。

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