第31話

 超大型の台風の接近に紅葉し切らぬ葉が次々と舞い散るのは、秋寂ぶ情緒を鈍らせる新時代の風物詩。


 自宅から業務に当たっていた玄凪は、点けていないテレビの真っ黒な画面を見たり、リモコンを触るなど落ち着かない様子。いつもなら朝起きてきた段階で点けるのだが、逢の死がどの様に報じられているか、その目で確かめる勇気が出せずにいた。


 今は大丈夫でも報道を見たら園恵と同じくらいにショックを受け、立ち直れなくなるのではないかという怯えと、報道を見て逸早く自分のせいではないと確認したいという他責思考とが、彼の内で鬩せめぎ合っていた。


 このままでは業務に差し支えると思った彼は、携帯を取り出すと通話アプリを用いて先輩に相談をする事に。相手は勿論この様な時にこそ話したい、想いを寄せる先輩だ。


 事の仔細を書き込んで携帯を置いた流れで玄凪はリモコンの電源ボタンを押した。どのチャンネルのニュース番組だろうと、取り扱うネタに大して差は無い。放送を開始してからまだ時間の経たないニュース番組にチャンネルを合わせ、それを傍観して返信を待つ。


 見知らぬ人が行方不明になり警察が調査を始めた。遥か遠くの地で内紛が起こった。海岸に魚が打ち上がった――彼等には、どの様なネタが取り上げられるか興味を持ってニュース番組を見ている時などない。取り扱ってほしいネタがあればその時に、それだけを求めて視聴する。彼等にとってニュース番組とはそういうもの。


 どんなにつまらないニュースだろうと、取り上げられるからには何処かにこの情報を欲している人がいる。知りたい事柄が少なくそれ以外に興味を示さないのも、無知を恐れぬ閉鎖的な集団へと変貌を遂げた証である。


 曲がり形にも先進国である当国がこの有様では、世界平和は遠のく一方だった。


 中身の無いコメンテーターの話をラジオ感覚で聞き流していた玄凪。望みのネタが報じられるよりも早く、携帯が振動した。


マ『そう。良かったんじゃない? 少し前に人の死に触れたことがあったから、貴方の傷は浅く済んだのよ。私なら立ち会わせてくれた園恵に感謝するわ』


玄『またこうやって俺を頼ってくれた人が死ぬことがあるんですよね。何か、人殺しみたいで嫌なんですよ…』


 一向にその事件を報じる気配が無い番組。呑気なスタジオの雰囲気は、いつものメイド喫茶へ行けばまたミーたんと会えるのではないかと、玄凪を惑わせる。そんな彼を現実へ引き戻すバイブレーションと共に、一本の電話が掛かってきた。

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